束の間の、お望みの夜を
「トリック オア トリートw エリリンww」
「あ?」
Mr.Lが怪訝そうに振り返った先には、いつもの笑みをたたえたディメーンが片手を差し出している。
言葉の意味がよく分からなかったMr.Lは、眉根を寄せてディメーンの言葉を繰り返した。
「トリック……、なんだって?」
「あれあれ? もしかしてエリリンは、ハロウィンを知らないのかい?」
「ハロウィン?」
「そ。なんでも、どっかの収穫感謝祭らしいよ。で、その日は子供たちが『トリック オア トリート』って言いながら、大人にお菓子をたかるんだよw」
「たかるのかよ; ……そのトリック何とかって言うのは、どんな意味なんだ?」
「『お菓子くれなきゃ、悪戯しちゃうぞ』w」
その言葉を言った瞬間、ディメーンの笑みがより一層黒くなったような気がした。
背すじが寒くなったMr.Lは、急いでごそごそと何かを取り出した。
「ほら。これやるから、何もしないでさっさと帰れ」
Mr.Lが取り出し、ディメーンに差し出したものは、クッキーだった。
普通のクッキーよりも強い黄色のそれは、焼きたてらしくまだ温かい。
「おや。これ、どうしたんだい?」
「や、なんとなく作りたくなってな。かぼちゃクッキーだ」
その言葉に、目の前のMr.Lの格好に納得がいく。
いつもの黒い服、その上に鮮やかな緑のエプロン。
……彼は、ハロウィンを知らないんじゃなくて、忘れているだけだということに、気付いているのだろうか。
「ふぅーん。なんだ、それじゃあ悪戯できないじゃんか」
「しなくていい!! ほら、それもらったら早くどっか行け」
「……それで終わっちゃったら、つまらないじゃないw」
「え」
早々に背を向けたMr.Lとディメーンの二人を囲むように、パチンと言う音と共に透明な空間が広がる。
突然の事態に慌てたMr.Lがディメーンの方を振り返る前に、耳元で声がした。
「『トリック オア トリック』だよ、エリリンww」
「なん」
一つのパチンと言う音と共に、空間が弾けて消えた。