一年に一度、私の大切な人へ。
貴方に贈る、甘い想い
* 少し臆病で、誰よりも優しいあなたへ
「おやつができたよー!」
屋敷中に広がる甘くて美味しそうな匂いとその言葉は、みんなが集まる合図。
ほどなくして、外に出かけていた人、部屋でくつろいでいた人、屋敷中のみんなが集まってきた。
「チョコクッキーだよ」
「なんだ、マルスもクッキー作ってたいたのか。珍しいな」
「マルスもいろいろあるんだ、つっこんでやるな」
アイクが笑いを堪えながら、見上げるメタナイトを抱き上げ、そのまま頭の上に乗せた。
それを横目に見ながら、大量のクッキーが乗った皿を食堂に運び入れる。
テーブルには誰よりも早く、カービィとヨッシーがスタンバイしていた。
僕の持つ皿に、二人の目がギラリと光る。
獲物を見つけた野生の獣の目だ。これはマズイ。
「ヨッシー、カービィ、勝手に食べちゃだめだからね。みんな揃ってから!」
「そうだぞー、つまみぐいなんてしたら、おやつも夕飯も抜きだからなー」
「「……はぁーい」」
兄さんの言葉に、二人がさっと手と舌を引っ込めたのを、ボクは見た。
まったく、本当に油断も隙もない二人だ。いつものことだけど。
クッキーをすべて運び終える頃には、ピーチ姫とゼルダ姫の淹れた紅茶と、ファルコンの淹れたコーヒーが準備できた。
それも人数分、テーブルへと運ぶ。
「はい、じゃあいただきます」
「いっただっきまーす!」
待ってました!という風に、勢いよくクッキーがなくなっていく。
おやつ時といい、食事時といい、この屋敷では常に戦争だ。
大変だけど、やっぱり作る側としては嬉しい……かな?
「あれ? ルイージ一人だけ違うの食べてる! ぼくも食べたいー!」
ボクのすぐ隣からひょっこりと顔を出してきたのは、先ほどまでクッキーを大量に消費していたピンクの悪魔。
彼の前にあるクッキーの皿は、早々に空になっている。
そんな彼が天使のごとき笑顔で、ボクの食べているチョコレートケーキに手を伸ばしてきた。
ガッとその頭を掴む。
「カービィ、これはとっても大事なケーキなんだ。だからダメだよ」
「ご、ごめんなさい……」
「ルイージ。お前、あっちにはクッキー贈らなくていいのか?」
兄さんが口いっぱいにクッキーを頬張りながら、こちらに顔を向けてきた。
『あっち』というのがどこを指すかは、わかっている。
掴んでいた左手を離し、ムーッと口を尖らせているカービィの頭を、いい子いい子となでながら、
右手のフォークでチョコレートケーキをつつく。
「いいんだよ。今日だけは、あっちから貰う約束してるんだ。だから、他の人にはお菓子作っても、今回はお花だけ」
チョコレートケーキをひと口。
チョコレートの苦い風味と、とても甘い味が口の中で広がって、溶けた。
甘いのが大好きな、彼女らしい。
「ふぅーん。そんなもんか」
「そんなもんだよ」
「ねぇ、ルイージー。やっぱりひと口だけちょーだい!」
「だーめ。これは特別なんだよ」