人がいる
たったそれだけで、最高の調味料
君といる食卓
ふと、いい匂いがしてきた。
何の匂いかわからない、というかおいしそうな匂いというべきか。
「んっふっふっふ〜? これはいったい、どういうことなのかな〜」
ディメーンは匂いの元をたどるように、ふわふわと浮遊移動していく。
暗黒城にいれば、おいしい匂いというものにはとことん縁がない。匂いといえば、マネーラの使う様々な香水ぐらいだろう。
そのままふわふわと匂いをたどっていくと、たどり着いたのは、案の定と言うべきか、食堂だった。
ここの食事のシステムは、洗脳された亀やキノコたちが作ったものを各自の空いた時間に食べるというもの。
正直言って、おいしいとは言い難い。
覗いてみると、鮮やかな緑色が目に入った。
「んっふっふ〜。なぁにしてるのかな、エリリン♪」
「うわぁあぁっ!」
真後ろで声をかけてみると、相手は面白いように跳ね上がる。
手にしていた小さな椀も落ちてしまい、中に入っていた熱い液体がMr.L の足にかかってしまった。
「ぅあっつ!」
「んっふっふ〜、エリリン一人で面白いねぇ」
「お前がいいいきなり声なんてかけるからだ!!」
「そんなことより、こんな所で一人でなにしてるんだい?」
Mr.Lの手元をのぞき込みながら、首を傾げる。
その手にはフライパンと菜箸、隣のコンロでは何かがぐつぐつと煮込まれていた。いい匂いはこれか。
「ここの料理、不味過ぎだ。脂ものばっかりで健康にも悪い」
「ふぅ〜ん、此処にいたシェフとは言い難いシェフたちは、どうしたんだい?」
「そこだ」
指さした先には、目を回している亀やキノコたちが数匹山になっていた。
「邪魔だったからな。……おまえも邪魔するんなら出てけ」
「ひっどいこと言うね〜。第一味は保証できるのかい?」
フライパンの中の野菜炒めに手を伸ばす。
だが、絶妙のタイミングでその手ははたき落とされてしまった。
「つまみ食いはだめだよっていつも、……?」
「あ〜らら、それは残念♪」
「ど、どうせ後少しでできるから、そっちで待ってろ!」
思わずこぼれた普段とは違う口調に、Mr.Lが慌てたようにディメーンを追い払う。
ディメーンはそれに気づかないフリをしつつ、おとなしく机に座ってその様子を見ていた。
「馬鹿。机に座るな、椅子に座れ!」
「んっふっふ〜、まるでお母さんみたいだねぇエリリン」
その言葉に少しだけ違和感を覚えて、ディメーンの方を振り返った。
だが、いつももいつかみ所のない笑みで机に座ったままで、特に変わったところなどない。
「(気のせいか? 今ちょっと……)」
「ねぇ、なんかいい匂いがするんだけど?」
「Σおぉ!? Mr.Lこんな所でなにをしとるんだ!?」
「だぁっ! てめぇらこっち来るんじゃねぇ! 邪魔だ!!」
菜箸を振り回しつつ、狭いキッチンになだれ込んできたマネーラとドドンタを追い払おうとした。
だが二人も負けじとフライパンの中を覗きこむ。
「えぇ、ナニこれあんたが作ったの!?」
「ほお、なかなか器用な奴だな!!」
「……はっはっは! 俺の手作り絶品キノコソテーだ! ありつきたかったら、机の上片づけて用意して待ってるんだな!」
「「はーい!」」
一瞬顔を見合わせたマネーラ達が、その言葉に素直に従う。
再び食堂のドアが開いて、今度はナスタシアとノワール伯爵が姿を見せた。
「騒々しいですね……。何事ですか」
「何でワールか、この匂いは?」
「んっふっふ〜、エリリンが食事を作ってるんだよ♪」
「ちょっとMr.L! 私をあごで使っといて、伯爵様にマズい食事食べさせたら承知しないわよ!」
「はん! 文句はこれを食ってから言うんだな!!」
その言葉とともに、ドンと机におかれた大皿の上には、湯気が上っているとても美味しそうなキノコソテー。
覗き込む一同から、感嘆の声が漏れた。
「おぉ……!」
「美味しそうでワール」
「あとマッシュルームのスープもあるから、欲しい奴は……」
「いる! 飲む!!」
「エリリ〜ン、僕の分ついで持ってきてくれるかい〜?」
「自分で取りに来い!!」
普段の物静かな食堂が嘘のように、この時ばかりは騒がしい。
それ以来、自然と食堂に人が集まるようになったのは言うまでもない。
fin.
そりゃあ、彼なら食堂も不味かったら乗っ取るでしょうと言う話!
思わず素が出るエリリンと、勝手に地雷踏んじゃったディメがいいと思います。
大変遅くなってしまいましたが、イタ様へ相互お礼小説として捧げます!!
相互ありがとうございました!これからも末永くよろしくお願いいたします!
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