いろんな世界を巡ってきた。





 真っ暗になった世界で





 最後の扉を、開いた。








 ありがとうの言葉
    





「はぁ、はぁ……」

「くっそ……、あいつマジで殴る……」

「んっふっふっふ〜。鬼ごっこは楽しんでもらえたかい?」




 先程までの暗い世界とは違う、『黒い世界』に陽気な声が響く。

 肩を上下させて、呼吸を整えていたマリオとルイージは、その声に振り返る。

 何かが弾ける音が響いて、目当ての人物が姿を現した。




「いい加減にしろ……、ディメーン! ふざけてばかりいないで、ちゃんと戦え!!」

「んっふっふ〜、ふざける? 失礼だなぁ、ボクはいつだってまじめだよ☆」




 珍しく声を荒げるルイージに対し、いつもの調子で笑顔を崩さないディメーン。

 だが次の瞬間、いつになく真剣な表情になって二人に語りかけてきた。




「ボクは君たちを観察してきたんだ。ノワール伯爵に対抗できるのは、やっぱり君たちしかいない」

「……なに?」




 ディメーンの予想外の言葉に、一瞬訳がわからなくなるマリオとルイージ。

 そんな二人に向かって、ゆっくりと口を開いた。




「実はお願いがあるんだ。ボクに、協力してくれないかい? ……伯爵を倒すために!」

「な、なに!?」

「ど、どういうことだ!? 伯爵を裏切るつもりか!?」




 そう言ったルイージを、少し意外そうな目で見たディメーン。

 その瞳に、一瞬だけいつもと違う色を見た気がした。

 だが次の瞬間には、いつもの何を考えているかわからない目に戻ったので、きっと気のせいだろう。




「裏切る? 違うね。むしろ裏切ったのは、ノワール伯爵の方だよ。伯爵はボクらに世界を滅ぼしたあと、
『理想的な新しい世界』を創ると言っていたんだ……。でも『新しい世界を創る』だなんて、嘘っぱち」




 両手を軽く挙げ、首を横に振ったあと、ディメーンは衝撃の事実を口にした。




「本当の目的は、世界を滅ぼし、消し去ってしまうことなんだよ!」

「……っ!」

「……なっ!?」




 ディメーンのその言葉に、二人は驚愕した。

 確かに、以前会ったマネーラ。彼女は今の世界を滅ぼしたあと、イケメンハーレムの世界を創ると意気込んでいた。

 ドドンタスにしても、そのような様子は見られなかった。

 だがそれでも、ディメーンに対する不信感はぬぐえない。




「ボクは前から、伯爵の本当の目的を知っていた。でも、ボク一人じゃ彼を止められない」

「……」




 黙りこくっているマリオとルイージの前を、静かに歩くディメーン。

 と、突然彼は指を立てて、くるっと振り向いた。




「だから、伯爵に従うフリをしながら、仲間に出来そうな人を探して、サポートしてきたのさ!」

「……」

「サポート、だと……?」

「そう……。例えば、捕まりそうになっているお姫様を、悪者の手から逃がしてあげたり……、ピュアハートを直せるように、途方に暮れている誰かさんをアンダーランドへ送ってあげたり」




 再び二人に背中を向け、指を折り折り数えていく。

 その背中を見ながら、マリオは思い当たる節がいくつかあるのを感じていた。




「……伯爵に捕らえられていたある男を解放して、彼のお兄さんに再会できるようにしてあげたり、ね」

「……ある男?」

「……!!」




 こちらを振り返ったディメーンは、先程までの真剣な表情ではなく、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 その様子に、マリオは自然と硬く握り締めていた手が緩んだ。

 ……もしかして、本当に?




「……アナタが、私たちの味方をしてきたって言うの……?」




 アンナも同じ気持ちなのだろう。恐る恐る、そう口にした。

 不思議と警戒心が緩むのが分かる。




「そうとも! だから、今度はボクに、力を貸してくれないかい? そしてボクも、君に伯爵を倒すための力をあげるからさ」




 その悪戯っぽい笑みも引っ込めて、再び真剣な表情になったディメーンが懇願する。




「……ボクと一緒に、戦ってくれ!」

「……これまで言ったことは、本当なんだな?」




 微動だにしないルイージの横で、マリオが静かに口を開いた。

 その瞳からは、不信感は消えていて、僅かばかりの確信が見える。




「もちろん」

「……分かった。なら」

「ダメだ」




 突然マリオの手が、堅く握られた。ルイージだ。

 マリオは、驚いてルイージの方を見上げる。

 ディメーンの方を見つめているルイージの頬を、冷や汗が一筋、伝った。




「……だめだ、兄さん。こいつは、絶対信用しちゃいけない」

「ルイージ……?」




 一瞬だけ揺れたディメーンの瞳が、ルイージのことを冷ややかに見下ろした。

 先程までの、誠実そうな雰囲気が一気に消える。

 それを合図に、まるで目が覚めたかのように、ディメーンへの警戒心が蘇ってきた。




「おやおや、断るのかーい? 伯爵からコントンのラブパワーを奪えば、その力で世界を支配できるんだよ?」

「……!」

「ボクの味方になっておけば、君たちの未来はバラ色さ♪ それでも、嫌なのかい?」




 ディメーンが口を歪めて笑う。

 まるで全て計画通りだとでもいうかのように。




「兄さん……っ」

「あぁ、……断る」

「んっふっふっふっふ〜」




 マリオの言葉を聞いたディメーンは、静かに笑った。

 相変わらず口は不気味な笑みを浮かべていたが、その目は笑っていない。




「そうかいそうかい。時間の無駄だったね。じゃあさっさと、死んでくれるかい?」

「っ!!」

「……特にそこのルイルイ君は弱っちくて目障りだから、真っ先にやっつけてあげるよ!」

「な……っ!」




 最後の一言に、ルイージが反応を示す。

 カチンと来たルイージは、その拳を強く握って強く言った。




「むぅ、何だと!?」

「ル、ルイージ;」

「んっふっふ〜、何か間違ってるかい? 怖がりで泣き虫のルイルイ君?」




 いつもより短気な様子のルイージにマリオは驚いた。

 まんまとディメーンの挑発にのせられたルイージは、そんなマリオへ思いっきり振り返る。




「兄さんっ! ここは僕に任せて、兄さんは先に進むんだ!!」

「な、何言って……っ」

「世界の崩壊を止めるためには、兄さんはこんな所でもたもたしていたらいけない!!」

「……っ!」




 ルイージのその一言にはっとする。

 ディメーンとのやり取りで忘れかけていたが、世界の崩壊まで猶予は無い。

 だが、それでもルイージをここに、あいつの元に一人残していくのは嫌だった。




「クッパやピーチ姫だってそのために戦ったんだ。僕だって……!」

「でも……っ!」

「……それに、何故だかわからないけど、あいつを見てると無性に腹が立つんだよ!」

「おやおや、失礼だな〜」




 んっふっふっと笑うディメーンをよそに、ルイージがマリオを見つめる。

 その目は荒っぽい言葉とは裏腹に、静かな怒りが燃えていた。




「だから……っ」

「…………っ」

「頼むよ、兄さん……!」




 静かに目を伏せるマリオ。

 ついこの間まで、洗脳されていたルイージ。

 もう、離れるのは嫌だ。

 ……でも




「…………わかった」

「兄さんっ!」

「ただし」




 崩壊まで、時間が無い。

 迷った末、マリオはルイージを見上げた。




「絶対にオレのもとへ、オレ達のもとへ帰ってくると、約束してくれ」




 きょとんとしたルイージだったが、兄のその言葉に小さく、でも確かに頷いた。

 それを見たマリオも安心したように頷き返して、笑っているディメーンの横を走り抜ける。




「ありがとう、兄さん」




 そんな言葉が聞こえて、マリオはルイージを振り返った。

 ルイージは相変わらず強い眼差しで、マリオを見ている。


 ルイージに見送られて、戦いに行く。いつもと同じ。


 こんな非常事態の中、たった一つの「いつも」を胸に、扉を開いて走り出した。

 もう振り返らない。そうしないと




「な、んで……っ」





 最後のありがとうが、「さよなら」に聞こえた。










fin.





「その『ありがとう』は、さよならに聞こえました」

これ、半分は自分の中での実話だったりします。
まんまとディメに騙されそうな私が「はい」にカーソルを持っていったところで、ルイージの声が頭に響きました。
「だめだっ!」って。感動した。そして助かった。
あと最後のは、ある曲のPVの「その『愛してる』は、さよならに聞こえました」っていうのが元ネタです。
これはそのうちにside-Lを書くつもりです。
そして姫やクッパの時と違ってためらったり振り返ったりした兄さんに萌え。

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