そっくりなんだけど 少しずつ違うんだ








世界すらも








 あの頃の二人は変わらない











 世界は狭いなんて、誰が言ったんだろう





「うおー! すごいな!!」




 夕日が大きな街の中に沈んでいくのを見て、マリオは感嘆の声を上げる。


 キノコ王国では見られない景色に、旅の疲れなど一気に吹き飛んだ。

 人助けのために世界中を旅してまわるマリオは、よくその土地特有の景色を目にする。

 朝焼けに包まれる大海原、月明かりに照らされる城、様々だ。

 それらは、どんなにたくさんの景色を見てまわっていても、常に何かしら新しい感動を与えてくれる。




「……あいつにも見せたかったな」




 何度同じことを考えただろう?

 いつもいつも留守番させているルイージは、世界にこんな景色があるなんて知らない。

 並んでこの景色を見て、二人で感動を分かち合いたい。


 二人は双子なのだから






 そこまで考えて頭を振る。



 自分の我侭でルイージを一人、家で留守番させているというのに。



 壮大な景色から、目を引き剥がす。

 改めて来た道を振り返ると、其処此処に気絶したノコノコやクリボーが倒れていた。


 今でこそほぼ無傷の状態でここまで来れるが、昔はもっとたくさんの怪我をしたものだ。

 そのおかげで、民間療法の類に強くなったのだが。



 弟に怪我をさせたくない、傷付けたくない


 その思いは、物心つく前から抱いていた。

 ピーチ姫を助けに行く様になってからは、余計に。

 旅に連れて行って、万が一のことがあったらと考えると、怖いのだ。

 もしかしたら自分のほうが怖がりなのかもしれない。


 そうやって我侭を言ってるのは自分なのに、この美しい景色をひとり占めしていることに少し罪悪感を覚えた。




 マリオは、月明かりに包まれ始めた景色に背を向け、野宿する場所を求めて森へと足を踏み入れた。




――兄さん……





 オレの勝手な願いだろうか



 あいつの声が聞こえた気がした























 世界は広いなんて、誰が言ったんだろう





「やぁっ!」




 ルイージが何もない空間に向かって突きを放つ。

 すでに相当の運動をしていたのか、突きと共に汗が散った。




「ふぅっ、こんなもんかな。……あれ?」




 タオルを取り出して汗を拭いていたルイージは、近くの木へ目を向けた。

 そこに姿は見えないが、親しみ慣れた気配がする。

 ルイージはしばらくそちらを見つめ、無言でファイアボールを放った。




「どぁっちぃ! 何しやがんだてめぇ!!」

「ワルイージこそ、そんな所で何してんだよ?」




 ルイージは、木の陰から尻に火が点いた状態で飛び出してきたワルイージに溜息をつく。

 対するワルイージは尻の火を消して、決まり悪そうに呟いた。




「……勝負しにきたんだが、てめぇが何かやってっから此処で見てたんだよ」

「普通に見ればいいのに」




 二度目の溜息をついたルイージは、たった今ワルイージが出てきた木陰に腰を下ろした。

 下にいるルイージに、木に寄りかかったワルイージが質問する。




「……さっきの、何やってたんだ?」

「何って、見れば分かるでしょ。特訓だよ」

「特訓〜!?」




 あまりに意外な答えに、ワルイージは素っ頓狂な声を出す。




「なんだなんだ、兄貴出し抜いて大活躍しようってか?」

「まぁそれも少しはあるけど」

「オイ」




 まさか肯定されるとは思っていなかったワルイージは、思わず突っ込んだ。

 しかし当の本人はボケているつもりはないらしい。




「……兄さん、いつも無茶ばっかりするからさ。兄さんに何かあった時は、僕が守ってあげないと」

「……」

「兄さんはいつも僕の事守ってくれるけど、守ってあげたいのは僕だって一緒だ」




 ルイージは膝を抱え、顔を膝にうずめるが、その横顔は真剣そのものだ。

 その真剣な顔にワルイージは、いつものように茶々を入れられなくなる。

 そのまま、ルイージが話すのを黙って聞いていた。




「最近はいいんだけど、昔はたくさん怪我して帰って来ててさ。酷い怪我してた時もあるし……。

 なんでそんなになるまで、兄さんが戦わなくちゃいけないんだろうって思ってさ。

 でも、言ってもきかないんだよね。兄さん、僕と違ってお人好しだから」


「……」


「僕は兄さんとは違う。兄さんをこんな風にする世界の平和なんて知ったもんか。

 ……兄さんが世界を守るんなら、僕は兄さんを守る。僕は、僕の大切な人たちが幸せなら、それでいい」


「……仮にもスーパースターの弟が、そんなこと言ってもいいのか」




 ワルイージの言葉に、ルイージは微笑むだけで何も答えない。

 でもどこか、見ているこっちが悲しくなるような笑顔だ。




「……僕は兄さんのように強くないし、器用に生きられない。こうやって特訓しても、兄さんには到底追いつけない。

 でも、兄さんやデイジー、僕の大切な人達くらいは守れるように強くなりたいんだ」


「……お前にとっての」


「ん?」





「お前にとっての世界って、狭いんだな」



「……うん。でも、大切なものだ」






 ルイージはこう言うが、あのスーパースターでさえ、そう器用には生きられまい。



 ――守ってあげたいのは僕だって一緒だ



 結局どこまでもそっくりな双子だと、ワルイージはいつもの能天気な顔に戻ったルイージを見ながら思った。








fin.




「世界が広い(狭い)なんて、誰が言ったんだろう」

…とりあえず、自分ちのヒゲ双子のイメージを凝縮してみました。
うん。多分こんな感じで合ってる。でも、ルイージはキレたら冷酷非情だといいよ!
…これは昔見た小説の影響か、オリカビ自キャラの双子の設定とかぶってるからだと思う。




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