え、お寝坊さんがいて困ってるって?






そんなときにはね……








 朝寝坊の特効薬
    






 いつもより、ややひっそりとした屋敷のキッチンで肉の焼ける音がする。

 そこに居たのは案の定、屋敷の家事全般を任されているルイージだった。

 手にしたフライパンの上には、いい感じに焼けたハムが二枚乗っている。

 コンロの横には、いくつもの卵。どうやら、ハムエッグを作っているらしい。





「……朝早くから、ご苦労様だね」

「あ、ネス。それにリュカも。おはよう」

「んー……」




 キッチンと食堂を繋ぐドアに、ネスとリュカが立っていた。

 パジャマに身を包み、少しだけ髪に寝グセの付いたネスは、未だ眠そうなリュカの手を握っている。

 対して、パジャマを着て、寝グセを爆発させた髪のリュカは、半ば閉じている目を擦って唸る様に返事をした。




「てか、どうやってドア開けたの」

「ふっふっふ〜w 僕をなめちゃダメだよw ちゃあんと、ジェフにこれ貰ったし!」




 そういうネスの手には、ピッキングの道具のような物が光っていた。




「……あんまり好ましいことじゃないんだけど」

「大丈夫だって! 変な事には使わないよ!!」

「約束だよ? そうだ。もうすぐご飯できるから、皆起こしてきてよ。大半の人は起きてるだろうから」

「わかった。ついでに僕、着替えてこよう」

「んむぅ……」




 ネスの後ろで、危なっかしくフラフラしているリュカを椅子に座らせ、ネスが足早に食堂を出て行った。

 食堂のテーブルには、既に大半の席にハムエッグが用意されていた。

 新たに出来たハムエッグと、大皿に盛った大量のトーストを手にルイージが来る。

 椅子の上で、頭を小さくこっくりこっくりさせているリュカを見て、思わず笑みがこぼれた。




「……なんか、べビィ達思い出すなぁ」




 ルイージは笑いながら、次のハムエッグに取り掛かるために再びキッチンへと消えた。













「むむむ」




 着替えを済ませ、いつも通りの格好になったネスは、ある部屋で、否、ベッドに寝ている人物に対して唸っていた。

 ルイージの言うとおり、大半の人は既に起きていたし、まだ起きてなかった人達もノックすれば起きてくれた。

 一部の人たちを除いて。




「さて、どうするか」




 腕を組み、未だに大口を開いて寝ているマリオを前に唸る。

 残暑が厳しいとはいえ、白いTシャツと柄パンで寝ている姿は、とてもいち世界の英雄とは思えない姿だ。

 先程からどんなに大声で起こしても、激しく揺すってみてもまるで起きる気配が無い。

 代わりに向かいにいるピーチが起きてしまった位だ。もはや、なす術が無い。

 ここはやはり、この仕事を日課としている人に聞くのが一番だろう。

 ネスは目を閉じて、意識を集中させた。













<ルイージ>




 突然頭の中に直接響いた、声ともいえないそれは、明らかにネスのテレパシーだった。

 一通り朝食の準備も終わり、キッチンで一息ついていたルイージは、ネスの声に心の中で応える。




……ネスかい? どうしたの?

<あのさ、君のお兄さんが全然起きてくれないんだけど>

……あぁ、ちょっとコツがいるんだよね。ちょっと待ってて。今行くから。

<わかったぁ。じゃあ待ってまーす>



 その言葉を最後に、ネスの声が途切れた。

 だいぶ人が集まってきた食堂も足早に抜け、一つ上の階にあるマリオの部屋へと急ぐ。

 ドアを開けて中に入ると、大の字になって寝ているマリオと、それを目の前にしているネスが居た。




「お待たせ」

「あ、ルイージ。どうにかしてよ。まだ他にも、起こさないといけない人達がたくさんいるんだ」

「うん。ほら、兄さん、起きてよ。もうみんな集まってるよ」

「ん〜……」




 ルイージの声にも、マリオは起きる気配が無い。

 それどころか、手にしたブランケットをかき抱くようにして横に寝返りをうってしまった。




「ほら、さっきからずっとこの調子なんだ」

「他の人はどうか知らないけど、少なくとも兄さんはこうすれば起きるよ」




 ネスに笑顔を向けたルイージは、そのままマリオに手を差し伸べる。




「え?」

「ほら、兄さん。起きないと。僕まだ準備終わって無いんだよ」

「うぅうぅん……」




 ベッドの上で身を捩じらせたマリオが、本当に薄く目を開けて差し伸べられたルイージの手を見つめる。

 まだ眠いというように眉根を寄せるが、起きる素振りは見せない。

 てこでも起きないつもりなのか、再び目を堅く閉じた。

 微妙な展開に、傍観していたネスが呆れたように言う。




「……何してるの、ルイージ?」

「まぁ、見ててよ。兄さん! 起きてって!!」

「むぅうぅ〜……」




 揺するわけでも、叩いて起こすわけでもなく。

 ただ手を差し伸べて待ってるルイージに、マリオがチラッと目を向ける。




「兄さん」

「……わかったよ」




 とうとう観念したのか、眠そうに目を擦りながらルイージの手を取る。

 ルイージはその手を引いて、マリオを起こす。

 よれよれのシャツを着て、ベッドの上で胡坐を掻いているマリオの髪は、リュカ同様とんでもない事になっている。




「……ぜったい、卑怯だ」

「何言ってんのさ。兄さんが早く起きないからだよ。もう皆集まってきてるよ? 僕、先行ってるからね。ネス、行こう」

「あ、うん」

「……わかった」




 そう言ってマリオが手を離すと、ルイージとネスは部屋を後にした。

 だが、ネスには再びマリオが寝ているのではないかという不安が残る。




「本当に起きちゃった……。でも、また寝ちゃったりするんじゃない?」

「そんなことないよ。こうして起こしたときはいつも、ちゃんと起きてくるから」

「ふぅん……」




 廊下を通り抜け、階段に着いたところで二人は立ち止まる。

 ネスが、微笑みながらルイージを見上げた。




「じゃあ、僕は他の人も起こしてくるね! 起きない人には、さっきのやり方だね?」

「うん。起きなくても粘るのがコツだよ。残りの人もよろしくね」




 ルイージは階下へ。ネスは階上へ。二人は笑顔で別れた。













 そうして、いつものようにみんな揃った朝食が始まるのだ。









fin.





友田様への、相互お礼小説です!!大変遅れてしまいましたが、相互ありがとうございました!!
単に『シャツとトランクスの兄さんが、寝癖ボンバーで眠そうに目を擦ってあぐらを掻いてる』のが書きたかっただけです。(何
さらには、エプロンルイージが呆れた顔で兄さんに手を差し伸べているのが見たかったんです。(爆発
……脳内爆発してばっかりの小説でした!途中脳内爆発しすぎで、挫折しかけました;



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