少し、うたた寝をしていたようだ。




だが目を開けても、そこは闇に包まれたままだった。





 賭け―GAME―







(……まだ夢か)




 依然続く暗闇の中、重い瞼を再度閉じようとした。




「ちょっとちょっと、やっと起きたのに寝ないでよ」




 聞いたことのない声に、暗闇に目を凝らす。

 前も後ろもわからない闇。いや、時おり電気か何かのように、光が走っていく。

 これが夢でなければ、異常な空間。

 そんなところに、さらに異常な存在が居た。




「おはよう、神様。ようこそ『この世界』へ」

「……なんだと?」




 異常な存在。それは何処となく、以前作った雑魚キャラ♂に似通っている。

 だが、アレはこのように青白く光ったりはしない。

 なにより、自我を持って話し始めることなんてあり得ないのだ。

 まるで闇に舞う蝶のよう。見慣れているはずの電子画面が、広げた翅の形を取っていた。




「お前は何者だ」

「せっかちだなぁ。……僕はね、最近『飢え』てるんだ。ちょっと遊んでよ」




 その顔に表情などあったのか。

 口は緩やかにカーブを描き、しかしその目は酷く冷たく、まるで有無を言わさず射抜くよう。

 ふと、悪い予感がした。ものも言わず、その身を翻してその場を立ち去る。




「えー、帰っちゃうの? ……帰れると思ってるの」




 音も無く笑いながら、その姿を見送った。









「……くそっ、出口は何処だ」




 辺りを見回してみるが、ただ闇が広がっているばかり。

 何か嫌な予感がする。早く帰らないと、みんなに知らせないと。




「ここから出れるわけ、無いじゃん。私が望まないのに」

「っ!?」




 振り返ると、先程とまったく変わらない位置にあの異常な存在が浮かんでいた。

 変わらず、冷たい目と笑みで。




「……お前は誰だ」

「ねぇ、見せてよ。君の力」




 質問に答えない、その異常な存在の態度が癪に障ったのか、その姿を拳の形に縮ませた。




「いいだろう。破壊神たる力、見せ付けて吐かせてやるっ!」

「ほぅ、頼もしい」




 拳の形で全力で異常な存在に向かって、力の限り突進。

 その場から一歩も動かず、ただ笑みを浮かべているソレに当たる直前、青く半透明の壁が発生した。




「っ!?」

「『破壊神』? 唯の出来損ないが、笑わせる」

「な、にっ!?」




 さらに力を入れて壁を押し破ろうとすると、まるでその反動のように強い力で弾き飛ばされた。




「『しかもそのショックで体が麻痺してしまったか、痺れてその場から動けない。』と」

「な、んだっ、と……!」

「『この世界』では『わたし』が全て。僕が願えば、不可能なんて何も無いんだよ『創造神・クレイジーハンド』」

「ぐっ……」




 そのとおり動けずにいるクレイジーを、まるで嘲笑うかのようにソレは見下ろす。

 怒りに我を忘れそうになる反面、クレイジーはある事に気がついていた。




「(こいつ、さっきから一人称とか口調が……?)」

「そうだねぇ、多重人格とでも思っておいてくれたらいいよ」

「! なんで」

「言ったはずだ、『この世界』では『わたし』がすべてだと」




 その異様な翅を一振り、ゆっくりとクレイジーの元まで降りてきた。

 笑い声は存在しない。でも口は確かに笑みを刻んでいた。




「ねぇ、貴方達の創ったみんなは、貴方の半神は、貴方が突然居なくなったと知ったら貴方のことを助けにきてくれると、思う?」




 小さく首を傾げるように、あくまで無邪気にクレイジーに問いかける。




「貴様っ、あいつらに何をする気だ!?」

「言ったでしょ、私は飢えてるの。愛情、友情、信頼、仲間。そのどれもが、こっち側ではあまりにも不安定」




 少し動けるようになったのか、クレイジーが目の前に居たソレを鷲掴みにした。

 はずだった。




「そうだね、あえて言うなら私は『この世界』の『管理者』とでも言っておこうか。ここでなら、私は神以上の絶対。

 同時に、本来ならここに居てはいけない筈のモノ。禁忌を犯した管理者、『禁忌<タブー>』の方がしっくりくるかな?」




 クレイジーの手の平の中は空っぽで、何も無かったかのようにソレ、タブーは宙に浮いていた。




「管理者……、禁忌<タブー>だと?」

「さて、自己紹介がすんだところで。……私と賭けをしないか」

「賭け、だって?」

「そう、『貴方の創ったモノ達が、友情や信頼を示して、仲間を助けに来る』か『来ない』か」




 タブーが一つ指を鳴らすと、クレイジーの周りに金色のワイヤーのようなものが巻き付いた。

 慌ててクレイジーが身をよじるが、身動きはさらに取れなくなるばかり。お得意の大暴れも効果が無いようだ。




「何のつもりだっ!」

「賭けるんだよ、互いの命を賭けて」

「……っ!」

「『助けに来れば』、私は倒されお前は助かる。『来なければ』、お前は永遠にここで眠ったまま」

「くっ……」




 怒りをあらわにタブーを睨みつける(顔無いけど)が、もはや成す術が無いのは歴然としていた。

 さらに追い討ちをかけるように、タブーが笑いながら言う。




「あぁ、ちなみに僕が倒されなきゃ君はここから出られないし、『ここ』に居る限り君は僕に勝てないから」

「拒否権無いのと同じじゃないか……」

「まったくもってそのとーり!」




 とうとう項垂れるように抵抗しなくなったクレイジー。

 だが、その言葉には一つの迷いも無かった。




「……あいつらは、オレが来るなと言っても来るだろう。そして必ず、お前を倒す」

「……そう、じゃあ賭けは成立だね。……楽しみだ」




 再びタブーが指を鳴らすと、今度は一気に眠気が襲ってきた。

 ワイヤーが優しく離れていく。




「大丈夫だよ、ちょっと寝てるだけだから……」




 まるで答えなど、はじめから分かっているかのように。




 最後に見たその笑顔はどこか、泣き出しそうに見えた。













クレイジーは亜空の間、一体何をしていたんだと。
ずっと寝ていたんですね。きっと後でみんなにフルボッコだwww
そしてこんなフリーダムな性格のタブーはじめて見たぜ☆

私なりのクレイジー、タブーと亜空事件の位置づけ。
そしてこのサイトの世界観の、核に触れるお話。

この時点でタブーの正体に検討ついた人は、凄いと思います。





Top