ねぇ



きみはまだ、覚えててくれてるかな




 古い約束






 最近少し伸びて後ろで小さく一つにくくった髪を揺らして、少女は走っていく。

 目指すは一頭身の剣士。青いマントがかっこよくたなびいている元へ、駆けていった。




「メタナイト!!」

「む、ナナか。どうした?」

「あのねー」




 それを見て面白くない者が一人。

 テーブルに頬杖をついて、不機嫌そうにそれを眺めている。

 亜空事件の後、ナナはメタナイトに事あるごとにちょっかいを出している。

 メタナイトの方も、大人の対応というか、ちゃんと礼儀正しく受け答えをするのだ。

 いつものもふもふコートではなく、ピンクを基調としたTシャツにズボンを着ている。

 雪山での夏と違い、ここの夏は本当に暑いのだ。

 ……ちょっとおしゃれな気がするのは、気のせいだと思いたい。




「……覚えてないんだろうなぁ」

「何を?」

「ぅわあぁ!!?」




 突然、真後ろで声がした。

 ちょっと恥ずかしいことを思い出していたので、思いっきり驚いてしまった。




「びっくりしたぁ……」

「なになに? なんかいやらしいことでも考えてたの? ポポ」

「んなわけないじゃん! 変なこと言わないでよね、ネス!」

「じゃあどうしたのさ?」

「その、……アレだよ。ネスなら分かるだろ」

「別に、いつでも何処でも他人の心覗いてる訳じゃないんだけど」

「じゃなくて……ほら」




 妙に歯切れの悪いポポが横目で示す。その先には、もちろん問題の二人がいた。




「あー……」

「……なんていうか、ちょっと」




 笑顔で会話を続ける二人(メタナイトは仮面で見えないが、そんな気がする)を眺めて、ポポは本日何度目かのため息をついた。

 ナナがあんなに楽しそうに話をしているのなんて、見たことがない。




「ていうか、さっき言ってた『覚えてない』っていうのは?」

「……言いたくない」

「僕に隠し事なんて無意味だよ☆ ……話した方が、気分も楽になるしさ」




 指を立てて、むかつくくらいの笑顔で言ってのけたネスを見て、諦める。

 どうせ本人の言うとおり、ネスに隠し事なんてしてもすぐにばれるのだ。

 ため息を一つだけついて、ポポは話を始めた。




「ボク等が、まだ小さい時の話なんだけどさ……」







………………………………………

 それまでは、まだ小さかったボクたちは親と一緒に登山をしてたんだ。

 それで、初めて二人だけでの登山を認めてもらえたのがその時で。

 嬉しくて、ボクたちとても張り切ってたんだ。




「ポポ! ぜったいにだれよりも高いところに登ろうね!!」

「うん! いつもより高いところに行こう!!」




 そう言って初めての二人だけの登山で、何も考えずに上へ上へと行ってたんだけど…。

 普段行かない高度まで登っちゃったからさ、ナナが高山病にかかっちゃって。

 頭痛いって言うし、呼吸困難とか、脈も弱くなっちゃうし、顔色も悪いし。

 ……なのに、どうしたらいいかわからなくって、ボクは何も出来なかったんだ。




「ナナ、ナナァッ……!」

「……大丈夫だよ、しんぱいしないで? ポポ」




 苦しそうにしながら言うナナを見てて、どうしたらいいか分からなかったボクは、夢中で言ったんだ。




「ナナ。ボクたちが大きくなったら、ボクのおよめさんになってよ!」

「え……」

「だから、こんなところで死んじゃだめだよ!? いっしょに帰ろう!!」

…………………………………………







「うわぁ……;それはなんていうか……」

「だから言いたくなかったんだよ」




 赤くなるポポが、不機嫌な顔でそっぽを向く。

 と、その目線に再びナナが映った。

 相変わらず二人は楽しそうに会話を続けている。




「それで? その後はどうしたのさ」


「意識失ったナナを担いで、麓まで降りたよ。親にものすごい怒られて、ナナの両親にも謝りに行った。

 ナナはすぐに病院に行ったんだけど、その時のことは覚えてないみたいで……」


「じゃあ返事は聞いてないんだ?」


「いや、意識失う直前にうんって言ってくれたよ。でも退院してから、一度もその話してないんだ」


「ふぅん……」




 なんともクサい話だ。

 今思えば、年端も行かないような子供が、随分ませたことを口にしたと恥ずかしい。

 そんなポポから目を離し、ネスはナナの方を見た。どうやらおしゃべりは終わったらしい。

 こちらに気がついたナナが、手を振って駆けてくる。




「でもポポ。大丈夫だと思うよ」

「なんで「ポポ!!」




 ポポの言葉を遮って、ナナが会話に混ざってきた。

 というか、来た早々ポポの手を取って飛び跳ねている。

 なまじジャンプ力が半端ないので、ポポは上下に激しく揺られることになる。




「ちょ、どどどどうしたのさナナナ!」


「ナナナじゃなくてナナよ! ていうか、そうじゃなくて明日!! 登山行くわよ!!!」


「はぁっ!? なんでまた……」


「こないだの事件で、メタナイトがあの山をワタシ達より軽々しく登ってたじゃない?

 なんとかワタシ達が勝ったけど、あれが悔しくて! だから、さっきメタナイトに再戦を申し込んできたわ!!」


「なん「悔しくなかったの!?」




 飛び跳ねるのを止めたナナが、ポポを詰問するように睨み付ける。

 その間に、ネスは二人に手を振ってどこかに行ってしまった。




「山はワタシ達のテリトリーよ! なのにあんな簡単に登られて……!」

「もしかして、ここ数日ずっと……?」

「そうよ! ずっと決闘を申し込んでて、やっとOKもらえたんだから文句なしよ!?」

「け、決闘って……;」




 顔をグイッと押し付けてにらみを利かせてくるナナ。

 だが怖いというよりも、顔が目の前にあるということの方がポポには効果があった。

 再び顔を赤くしたポポが、ナナの勢いに呑まれて頷く。




「わ、分かったよナナ! だから……」

「よっし! そうと決まったら早速準備よ!! 行くわよポポ!」




 そう言うとナナは自室に向かってポポを引きずっていった。

 それを遠くから眺めていて、ネスは人知れず笑いをこぼす。


 屋敷の中でネスだけは、二人が古い約束を心の片隅においているのを知っていた。





fin.




「約束は、いざという時に本当に強い言霊」

書いてて恥ずかしいったらありゃしない!!(赤面
何だこの二人組み!マセがきめ!
とりあえずナナメタフラグは立ちません。当サイトは全力でポポナナプッシュです。
ナナはポポの言葉を遮って話します。ネスは心が読めるので何でも知ってる。
そしてナナが勇ましい。



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