「なーんか暇だね。兄さん」

「そうだな……。姫のところにでも遊びにいくか」

「あ、それいいね」

「マリオさーん! ルイージさーん!!」




 二人が城へ行こうと家を出たところで、聞き慣れた声が聞こえた。

 その声が合図であるかのように、二人は顔を見合わせ、ため息をつく。




「たたた大変なんです〜!!」

「で、今日は何だ?」

「ひひひ姫が何者かに攫われちゃいましたぁ!!」

「わー大変だー」(棒読み

「……どうせいつも通りクッパだろ。行くか」

「そうだね。早く片付けて、お城でゆっくりしようよ」




 マリオとルイージがそれぞれ伸脚や伸びをして、準備をする。

 キノピオのいつものオロオロした顔に手を振って、二人は出発した。






『どうせいつもと一緒』


その結果が、この大きな代償なのか?









 願う、辛さ
    







"エリリン"




 あいつの言葉が、直接頭に響く。

 聞いちゃ駄目だと、直感で感じた。

 だから耳を塞ぐのだが、それはお構いなしに自分の精神を蝕んでいく。

 全てから逃げ隠れるように、目を堅く瞑ってその場にしゃがむ。

 違う違う違う。僕はルイージだ。

 自分を『エリリン』と呼ぶその声が、懐かしく感じるだなんて間違ってる。

 自我を失わないように、あいつの声が聞こえないようにと声をあげた。

 そばにいる兄の声が聞こえる。安らぎを求めるように、思わずその手を握った。




「ルイージ……ッ!」

「いやだ……っ、違う、いやだっ!!」

"何が?"




 その言葉に、薄れていく自我が反応する。

 『何が?』……何が嫌なのだろう、自分は?

 何も分からなくなって、とりあえず声を上げる。

 そうしてないと、いけないような気がしたから。




「嫌だっ、いや……」

"いつまでも『兄さん』の陰に隠れてることが?"

「……っ!」




 その言葉に、思わず身を堅くする。

 開かれた目が、どこか一点を凝視する。

 のどが渇き切ったように、声が出なくなる。




"だったら、僕と一緒にヒゲヒゲ君を倒そうよ"

「ぼ、くは……っ」

「ルイー"ねぇ、エリリン?"




 それまで堅く握っていた兄の手を、勢いよく振り払う。

 もう、限界だ。




「……っ!?」




 驚くマリオの目には、ルイージの顔は、何かをこらえて辛そうな顔に見えた。




「ルイー……」

「お、れ……は……!」




 驚愕に目を見開くマリオの目の前で、ルイージの周りを混沌のラブパワーが包んでいく。

 瞬く間に、その姿が変わっていく。

 変わってしまったその姿を、ディメーンは恍惚とも呼べる表情で見つめていた。




 なんで、なんでこんな……。




「……綺麗だよ、『エリリン』」

「ル、イー……ジ?」




 変わり果ててしまったルイージの姿を前にして、マリオは愕然とする。

 全身を黒く染め、その両手両足はプラス記号のようなものが連なっているばかり。

 頭部にかろうじて残っているルイージの面影が痛ましい。




「…さぁ、君の本当の力を見せてあげなよ『ルイージ』!」




 裂けているのかと疑うほどに、ルイージの口が大きく開いた。

 その中に、ディメーンが自ら飛び込んでいく。




『もうボクは誰にも負けない!これで、新世界はボクの物だー!!』




 異形と化したルイージの口から、ディメーンの声が響く。

 不気味な笑いを浮かべたルイージの目が、マリオたちを捕らえた。




『手始めに、勇者達にその命を捧げてもらおうか!!』




 奇妙な腕の先についている巨大な手袋が、拳を作ってマリオ目掛けて向かってくる。

 だが当の本人は呆然とルイージを見ているだけで、その攻撃を避けようとすらしない。





「マリオッ!」

「…っ、馬鹿もん!!」




 身体がものすごい勢いで吹っ飛ばされた。

 反射的に、受身を取って地面に転がる。

 思いっきり殴りやがってと、頭の端でぼうっと思う。

 自分をかばって、代わりにその攻撃を受け止めている、馬鹿でかい間抜けな亀を見ながら。




「貴様は、……馬鹿かっ!」

「……るせぇよ」

「こうしている間にも、世界はどんどん」

「うるせぇよ!!!」




 怒鳴ったマリオの声は、震えていた。

 ややうつむき加減のその目には、クッパが、ピーチ姫でさえも初めて見る、大粒の涙が浮かんでいた。




「貴様……」

「ルイージを、手に掛けるなんて……出来る訳ないだろ!!」

「……!!」



 マリオの叫び声が、悲痛に響く。

 帽子ごと前髪を押さえて、涙をこらえる。

 だが、涙はとどまる所を知らないかのように流れ続ける。

 その様子に、二人は何も言えなくなる。




「なぁ」

「……」

「……ルイージ、もう、元には戻せないのかな」




 クッパはマリオの嘆願するような顔から目を逸らす。

 こんなマリオ、見てられない。




「なぁ……っ!ルイージは……。ルイージを、手に掛けるなんて、オレは……」

「マリオ」




 涙を流し、うなだれているマリオの肩に優しい手が降りる。

 見上げると、ピーチ姫の顔が目に入った。




「……あなたがルイージを止めなくて、誰が止めるの?」

「けど……っ!」

「ルイージを、止めなきゃ。……あなたにしか、止められないのよっ!?」

「……っ!」

「それに、もうあまり時間もない。……ルイージが帰ってくる場所を、守らないとね」

「姫……」




 自分に目線を合わせるためにかがんでくれた彼女の、優しい顔が自分を目覚めさせてくれる。

 ……そうだ。ルイージは、きっと帰ってくる。

 帰る場所がなかったら、あいつは悲しむだろう。

 ちゃんと、迎えてやらなくては。いつものルイージみたいに。




「……『希望を捨てぬ者だけが、滅びの予言を退け、暗闇の先の未来に辿り着くだろう』」

「……!」

「あのじじいの言っていた、白の予言書の一説だ。……助けたいんだったら、希望を捨てぬことだな」

「……クッパ」




 そっぽを向きながら言うクッパの背中を見て、思う。




「……そうだな」




 オレは、ルイージを諦めねぇ




 最後の涙が、一つ零れた。














end.







  とりあえず兄弟愛が書きたかっただけ☆(爆 
  題名は意味不明です。関係ない感じです。
  もう何も言えない。頑張って抵抗してる弟と、ルイジを手に掛けられないって辛そうな兄貴がマジ萌える(Sめ
  スペマリのテーマが珍しく『愛』だと?違うだろ、『兄弟愛』だと信じてる☆(ウゼェ




 Top