ここは、呆れかえるほど平和なプププランド。



『宇宙一輝いている』と称される星にあるこの国で、



外部からの侵略者以外のトラブルの原因は、




「起きてください! 大変なんスよ!!」


「うぅ〜ん、なんだよワドルディ……こんな朝早くからぁ」


「なに言ってるんスか! もうお昼ッスよ!
 じゃなくて、大変なんですって。助けてくださいカービィさん!!」




半分はこの国のヒーローで、




「ふわぁあ。もう、どうしたっていうのさぁ」


「大王様が、家出しちゃったッスー!!」






半分は、この国の王様である。








 The other side of Mirror




「家出ぇ〜? またどっか行ったの大王。
 っていうか、大王が家出するのなんて別に珍しくもないし、今更大騒ぎするほどでもなくない?」


「うぐっ、それはそうッスけど! 昨日から帰ってきてないんスよ!
 いつもなら数時間で、すごすご帰ってくるのに」


「すごすごって……」




ばたばたと手を振って主張するワドルディに、この国のヒーローは呆れた目を向けた。


あくびを一つ零しながら、眠たそうに目元をこするカービィは、いまだベッドの上から動かない。




「別に、大王だって子供じゃないんだから大丈夫だよ」


「でもっ、でも今回はポピーさんもほかの誰も行先を知らないし、
 どこを探してもいないし、この間あんなことがあったばかりなのに、
 お供もつけずに一人で出掛けるなんて……」




先ほどまでばたばたと動かしていた手をおろし、しょぼんと肩を落とすワドルディ。


「あんなこと」というのは、デデデ大王が突然タランザに誘拐され、
その黒幕であったクィン・セクトニアの「地上を支配する」という野望を阻止した一件である。


例のごとく操られ対峙したデデデ大王を、いつも通りコテンパンにしたのは、
ほかならぬカービィだ。


涙を潤ませるワドルディを見つめ、ため息をひとつついた。




「……わかったよ、ぼくがワープスターで探してくるから」


「ほんとッスか!?」




顔を上げるワドルディの横に降りて、出掛ける準備をする。


持っていくものは、ごはんとおかし。




「……本当に、大王様探しに行ってくれるんスよね?」


「うん、なんで?」




不思議そうに笑顔を向けるヒーローに、ワドルディは不安を覚えた。






…………







「うぅーん、どこにもいないなぁ」




オレンジオーシャンの上空。


食べかけのトマトを片手にワープスターに乗ったカービィは、
眼下に広がる砂浜を見下ろしながら一人つぶやいた。




お昼過ぎに家を出てから、早五時間。


きらきらと煌めく水面は、ここが夕陽の海であるから、だけではないだろう。


眩しい夕陽の背後には、煌めく星の夜が迫っていた。




「グルメットも、夢の泉もいなかったし……。メタナイトも知らないって言ってたしなぁ」




グリーングリーンズ、バタービルディング、フロートアイランズ。


思い当たる節はすべて行った。


しかし、どこを探しても見慣れた人影どころか、大王を見かけたという人もいない。


あと、探していない場所といえば。


振り返って、月影に揺れる巨大な影を見上げる。




「……ワールドツリー」




月明かりに照らされた花が、怪しくも美しく咲いている。


はぁ、とため息を零したカービィは、トマトの最後の一口を口に放り込み、
ワープスターを樹上へ向けた。






…………







「まったく、この間の怪我も治ったばかりだっていうのに、どこまで登って行ったんだか」




ワールドツリーにたどり着いたカービィは、
ファインフィールド、ロリポップランド、オールドオデッセイ……と、
各エリアを順番にワープスターで探してまわっていた。


案の定というかなんというか、カービィが予想したとおり、デデデ大王は一人でこの樹に来ていたようだった。


あちこちにハンマーで壊したと思われるブロックがあったし、ここに来ていくつか目撃証言も聞くことができた。


しかし不思議なことに、本人には一向に追いつかない。




「(ぼくはワープスターで追いかけてるのに、大王早くない?)」




とはいえ、ワールドツリー自体は登るのにそんなに時間のかかるものではない。


一日もあれば登れる新しい観光名所だ。昨日から出ているならば、最悪、もう降りていても不思議でない。




「入れ違いになったかな? まったく、どこで何してるのやら……」




目指すは、月明かりの浮かぶ女王の間。




ガシャーンッ




「っ!?」




厳かな雰囲気を漂わせる扉の向こうから、何かが割れる音が響いた。


部屋に向かうそのままの勢いで、ワープスターごと扉に突っ込んでいく。


先ほどの音にも負けない派手な音を立てて部屋に突入すると、
ビクッと跳ねた目当ての人物が、こちらに向けてハンマーを構えた。




「って、カービィ!? なんでお前がこんなところに」


「こっちのセリフだよ! なに今の音!? 大王だいじょうぶ!?」


「え、お、おう。大したことねぇよ」




ハンマーをどすんっと下ろしたデデデ大王は、あちこちに切り傷を作ってはいたが、
いつもと変わらず元気そうだ。


ほっと息を吐いたカービィは、ワープスターから降りる。じゃり、と音がした。


その足元には、金色に輝く歪んだフレームと、粉々になった何か。


そのフレームには、見覚えがあった。




「……これ、もしかして、鏡の国の?」


「だろうな。……オレ様がここに来た時、誰もいないこの部屋に鏡が一つ、ポツンと浮かんでたんだ」




無残に砕かれたガラスの破片を見下ろしながら、デデデ大王は目を細めた。






…………






「おーおー、さすがにボロッボロだな……」




ぎぃっ、と音を立てて扉を開けたのは一時間ほど前のこと。


ハンマーを肩に担いで一人で登ってきたデデデ大王は、荒れ果てたかつての女王の部屋を見てつぶやいた。


部屋の脇に飾られていた巨大な銅像の残骸に触れながら、つい数日前の出来事を思い出す。




「いくら操られていたとはいえ、よくもまぁここまで暴れたもんだなオレ様も。
 イテテ、筋肉痛思い出してきた」




あるはずのない痛みに、ハンマーを持っていないほうの腕をぐるぐると回す。


と、視界の端で何かがきらりと光った。




「うん? ……鏡? こないだ来た時、こんなのあったか?」




部屋の中央に少し浮いて自立している鏡は、デデデ大王の身長よりも一回り大きいものだ。


大きさだけでなく、その装飾もなかなかのもので、それなりの存在感を放っている。


……あの騒動で気付かなかっただけだろうか?




「それにしても、立派な鏡だなぁ。城に持って帰って飾るか!」




満足げに胸を張ったデデデ大王は、鏡の前でひとり、腕を組んだり、顔に手を当ててポーズを決め始めた。




「うーん、こっちのポーズのほうがかっこいいか?」


「いや、それよりこっちのほうがカッコイイだろ」


「えぇー、そうか? それならこっちの方が」


「「……」」




自分と違うポーズをしている鏡の中のデデデ大王が、ニヤッと笑った。






…………






「で、鏡の中から真っ黒なオレ様が出てきたから、ぶっとばしてやったんだよ」


「鏡から大王が!?」




ふんっと鼻を鳴らして胸を張るデデデ大王を、あんぐりと口を開けたカービィが見上げる。




「おうよ。真っ黒なオレ様だったから、ブラックデデデだな。略してブラデな!!」


「何そのバカみたいな呼び方。厨二くさいよ」


「シャドーやダークのお前らに言われたくねーよ」




いつもの表情に戻り、ぷっと吹き出したカービィの頭をゲンコツで小突いてやる。


シャドーカービィやダークメタナイトの話は、すでに二人から聞いていた。




「……お前らから話聞いてたから、あいつが鏡の世界から来たオレ様の「負の部分」っていうのはすぐわかった。
 まぁいろいろあれだったけど、すぐに返り討ちにしてやったぜ」


「それで、鏡割っちゃったんだね」


「いや、ブラデは鏡の中に追い返してやったんだけど」


「えっ」


「その後、黒いメタナイトが、ダークメタナイトが出てきた」






…………






ハァッ、と大きく息を吐いてハンマーをごとりと置いた。


突然現れた、ブラックデデデとの一戦。


自分が今まで見ないふりをしてきたいろんなものを見せつけられた気分だった。


それでも、向き合って、打ち勝って、乗り越えて。


目を回して倒れたブラックデデデが、宙に浮いて鏡の向こうへ消えていった。


斧なんて振り回したことなかったぞ、と悪態をつきながら、斬りつけられた腕を抑える。




「……これ、あれだよな。カービィとメタナイトが言っていたヤツ。なんだってこんなところに」




上がった息を整えながら、ブラックデデデが消えた鏡の中をのぞき込む。


自分と、さらに酷く荒れてしまった部屋しか映さないはずの鏡の奥で、
何かがキラリと煌めいたような気がした。




「なんだ?」




目を凝らした鏡の中から、剣がにゅっと突き出される。




「うおっ!?」


「ふん……どいつもこいつも、役立たずめ」


「め、メタナイト……!?」




鏡の中から出てきたのは、ほかでもないメタナイトだった。


しかし、先ほどのブラックデデデと同様、普段のメタナイトより体の色が黒い。


なにより、その仮面には大きな傷が入っており、その奥に見える瞳は真紅の色をしていた。




「誰だ貴様は」


「あん? お前の主人であるこの国の偉大なる王様、デデデ大王様だ!」




そういって胸を張るデデデ大王を鼻で笑い、荒れ果てた部屋に降り立ったダークメタナイトは
その首筋に剣を突きつける。




「ほう? ならば、貴様を倒せば、この国は俺のものということか」







…………






「ダークメタナイト!? あいつも来てたの!?」


「おう。だからオレ様がしっかり追い返してやったぜ!」




これ以上なんか変なのが来られても困るしな、と鏡を割ったいう。


いつものようにあっけらかんと笑うデデデ大王をよそに、カービィは眉根を寄せる。




「いったいなんでまたダークメタナイトが」


「なんか、今度こそおまえを倒してこの世界をなんだかんだと、物騒なことを呟いてたけどな」


「また鏡の世界で何かあったのかな……。今回の事件も、鏡の国が絡んでたってこと?」


「さぁな。……今となっちゃ何もわかんねぇし、確かめようもないしな」


「大王が鏡割っちゃったからでしょ」




ムッと顔を向けたのち、そのままうーんうーんと考え込むカービィを見て、
鏡を割る瞬間に見た「灰色」を思い出す。


ブラックデデデと同じように鏡の向こう側へぶっとばしてやったダークメタナイト。


それを鏡の向こう側で受け止めた「灰色の」カービィは、ダークメタナイトと自分を交互に見て、
ほっとしたような、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。




「     」




「ん? どうしたの大王?」




鏡の向こう側と同じ顔で、きょとんとした表情を浮かべるカービィに、
デデデ大王は何も言わず頭をわしわしと撫でまわしてやった。




「わぁっ、なに!? なに突然!?」


「何でもねーよさびしんぼ」


「は!? 突然なんの話? っていうか、だいたいなんで一人でこんなところに来てんのさ!
 いい歳して家出とかやめてよねー。世話焼かせないでよ!」


「家出!? 何の話だ! ちゃんと『ちょっと出かけてくるから、心配すんな。探すなよ』って書置きしていったぞ!」


「それでしょ! その手紙が原因でしょ!!」




ズビシッと指さすカービィが、はぁ、とこの日何度目になるかわからないため息をついた。


律儀に宙に浮いて待っていたワープスターを呼び寄せ、片足をかけてヨッと乗り込むと、振り返って手を伸ばした。




「ほら。みんな待ってるよ」


「……おう」




手を取り、飛び立った空は、すっかり夜になっていた。


ここには相変わらず、美しい月が浮かんでいる。






「ところで、ほんとに何でこんなところに一人で来たの?」


「……くん」


「え? なんて?」


「……っ秘密の特訓だよ! またこの間も操られたりしたし、やっぱりお前に負けてるし」


「……プッ! なにそれ! 秘密の特訓するためにワールドツリー登ったの? 秘密の? 特訓に??」


「だああああああ笑うな!!! だから誰にも言いたくなかったんだ! 特にお前には!!!」


「いやいやー、いいことだと思うよ? 頑張って頑張って! そうだそれじゃあここで降りて帰る?」


「ふざけるな! どう考えてもホバリングで帰れる高さじゃないだろ! 押すな!!」


「大王様ー!」




声のした方を見下ろすと、青いバンダナをしたワドルディがワールドツリーの幹の上で、
両手をあげてピョンピョンとはねていた。




「あれ、バンダナワドルディ?」


「そうだ! あいつも連れて帰らねーと!」


「カービィさんも来てたんですね! 大王様、特訓はどうでした?」




わいわいと騒がしい流れ星が、月の眩しい夜空を駆けていった。








fin.









――二人を返してくれて、ありがとう。



カービィ誕生日おめでとう!! 相変わらず遅刻マンだけど、これだけは意地でも4/27とするぞ!(
カビ誕小説のつもりがなぜかトリデラ変テンション微シリアスに……。
おかしいな、ほのぼのギャグを書くつもりだったのに、どうしてこうなったのか。
また改めて、鏡組のまとめてかけたらいいなーと思います。

2014/4/27



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