この時が来ることは





はじめからわかっていた






もうその名前を呼ばないと、誓うよ








 優しいもの
    






「ううう……、どぼぢで、どぼぢでヤツらに勝てないんだよ…」




 真っ白な空間で、床に手をつき悔し涙を流している男が一人。

 二度の戦いで、厳密に言うなら三度の戦いで赤いヒゲの勇者に全敗したMr.Lだ。

 自分が仕組んだことだとは言え、ここまでストレートに負けてくれると果たして計画通りなのか疑問に思うところだ。




「やぁ、エリリン。またまた負けちゃったのか〜い?」

「……ディメーンか」




 涙で潤んだ目で見上げられると、果たして本当にこれが求めている『ミドリのオトコ』なのか自信がなくなってくる。

 あの勇者の弟という話だったが、とてもそうは見えない体裁だ。




「い、一体ヤツらに勝つにはどうすればいいんだろう……。このままじゃ僕……」




 ふるふると頭を振って、背を向ける。そして、涙を拭いて顔を上げた。




「い、いや、オレは伯爵に会わせる顔がないぜ……」

「んっふっふ。そうなんだ? ちょうど良かった♪」




 Mr.Lのその言葉に、口がにやけてしまうのが止められない。

 いつも以上の笑みで、静かに両手をあげた。

 わずかな魔法の流れの後、狙い通りにMr.Lの足元で大きな爆発が起きる。

 だがさすがあの勇者の弟とでも言うべきか。Mr.Lは間一髪でその爆発を避けた。




「な……!? 何をするっ!? あぶねぇだろっ!!!」

「だって、会わせる顔がないんだろ?」




 はたから見てもはっきりと分かるほど、Mr.Lは冷や汗をかいている。

 我ながら上手い事を言うものだ。それが愉快でにっこりと言葉を続けた。




「なら、あの世へ行っちゃいなよ〜♪」

「なっ……!?」




 そう。この計画の最も重要なこと。

 それは、あの伯爵を倒すために、生死を扱うと言うあの世の番人にピュアハートの力をよみがえさせて、
 最後の勇者をそろえること。

 そのためには、ここにMr.Lという人物が居てはならないのだ。




「ふざけるな……。冗談は顔だけにしておけ!」

「酷いな、ふざけてるだなんて。ボクは大真面目だよ『Mr.L』」




 『Mr.L』 そう彼を呼ぶのは、初めてのことだ。

 今のボクに必要な物は、最後の勇者であり、ミドリのオトコである『ルイージ』。




「いいかい? キミが伯爵様のそばにいると、ボクには何かと都合が悪いんだ。
 ここなら伯爵様や他の奴らに見つかる心配も無い。今がチャンスなんだよ」



 そう。必要なのは、『エリリン』じゃない。

 これまで過ごした、たった数日の思い出に蓋をして。

 ただただ、目の前に居る『Mr.L』を射抜くように見つめる。




 「……わかるだろう? Mr.L」




 冷ややかな目でMr.Lを見下ろし、片手を挙げる。

 すると、何も無い空間からMr.Lを取り囲むように透明な壁が出現した。

 それに気付いたMr.Lが慌てた様子で壁の中から出ようとするが、壁はびくともしない。




「うわ!! よ…よせっ!」

「んっふっふっふっふ〜♪ 心配しなくてだぁいじょうぶだよ。寂しくないように他の奴らもすーぐに、後を追わせてあげるからね」




 無駄だとわかっているだろうに、見えない壁を両手で叩き続けている。

 そんなMr.Lを見ながら、ディメーンは静かに左手を上げた。

 と、何かに気付いたのか、Mr.Lがこちらを見つめたまま動きを止める。




「……馬鹿野郎」




   静かにそう言ったMr.Lは、悲痛な顔をしていた。




 「泣くくらいなら、始めから……っ!」




  パチン




 小さなその音が響くと同時に、大きな爆発が壁の中で起きた。

 Mr.Lが両手をクロスさせてガードするが、それも無駄なこと。

 爆発がおさまった頃には、もう彼の姿は影も形もなかった。




「……『泣くくらいなら』?」




 Mr.Lの最期の言葉に、その左手を頬へと持っていく。

 その指についた何かは、透明な液体でこの真っ白な空間に反射していた。




「…………涙?」




 そんな馬鹿な。彼じゃあるまいし。

 そんなもの、とうの昔に忘れてしまった。

 濡れている自分の指を見つめる。




「……どうして」




 最期まで、そんなに優しいのさ。




「……んっふっふ、これでよし! ……ボン・ニュイ、エリリン」




 『彼』の最期の顔を頭から振り払うかのように、その場から背を向けた。













end.





「泣くくらいなら、はじめから」
  (……こんなこと、するんじゃねぇよ)

鬼/束ちひ/ろの「私とワル/ツを」を聞いてたら書きたくなったブツ。
あとは自分でも知らないうちに泣いてるディメが書きたかった。
Mr.Lの最期のシーン。そして、ディメの中で何かが変わった瞬間。
まだはっきりとわかってはないけど、今までに無い感情に違和感を覚えてる。
そんな感じのお話です。



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