『ごめん』
その言葉はちゃんと、君に届くのだろうか
夢の前の夕暮れ
天気予報もバッチリ当たって、真っ青な空のてっぺんを眩しい位の太陽が過ぎていった。
そんなキノコ王国の端っこにある家からは、いつものほのぼのとした笑い声が……
「兄さんが悪いんだろ!?」
「だから知らなかったって言ってるじゃないか!!」
……ではなく、珍しく騒がしい声がした。
どうやら喧嘩しているようだ。
「第一なんで一人で食べちゃうのさ!!」
「小腹がすいてたんだよ! それに一個しかなかったんだから、オレの分だと思うだろ!」
既にかなり怒鳴り合っていたのだろう。
二人は肩で息をしながら無言で睨み合った。
と、ルイージの目にじわじわと涙が浮かんできた。
それを見たマリオは驚き、動揺する。
「……兄さんのバカッ!!」
玄関のドアを荒々しく開けて、ルイージは家を飛び出した。
太陽が少しばかり西に傾いたキノコ王国に、とぼとぼと歩くルイージの姿があった。
「はぁ……」
ため息が出る。見慣れた姿の珍しい行動に、道行くキノピオ達が振り返る。
(せっかく二人で食べようと思ってたのに……)
脇を駆けていく子供キノピオを見ながら、喧嘩の原因に思いを馳せる。
昨日の夕方、冒険に行っていた兄が帰ってくる予感がして買出しに行った帰り、
ふと目に付いたケーキ屋さんの限定商品の看板につられて、その店に入ったのだ。
おいしそうではあったが、夕方ということもあり売り切れ覚悟で入ったのだが、幸いなことに最後の二つが残っていたのだ。
――表の看板の、限定のケーキはまだありますか?
ホクホク顔で店を出ようとしていたルイージは、入れ替わりに入ってきた少年の言葉に足を止めた。
たった今売り切れましたという店員の言葉に、少年はしょんぼりとする。
聞くと、今日は弟の誕生日で、プレゼントに買おうとしていたそうだ。
――僕のケーキ、一つあげるよ。
喧嘩しないで、仲良く二人で食べるんだよ、と約束して少年を見送った。
自分も二人で食べるつもりで、予想通り帰ってきた兄を迎えたというのに。
「はぁ……」
再び、本日何度目かになるため息が出た。
なくなったものは仕方ない。いつまでも怒っていても、どうしようもないのだから。
それよりも、勢いに任せて悪いことを言ってしまった。仲直りをしなければ。
「……それにしても」
ルイージは家を出る時にとっさに持ってきてしまった、手の中の財布を眺める。
おしりの右ポケットには、常時携帯しているエコバッグが入っている。
特にあてもなく歩いていたはずなのに、その足はいつも行くスーパーへ向かっていた。
習慣というのは恐ろしい。どこまでも主夫じみている自分に呆れた。
「今日はキノコ料理、たくさん作ろう」
仲直りの方法まで主夫じみている事には気付かずに、スーパーへと足を踏み入れた。
一方、兄・マリオはというと、ソファの上にゴロンとうつ伏せになっていた。
不満げな顔で、手元のクッションに顔をうずめてブツブツ言っている。
「大体なんで一つしかないんだよ。っていうか、バカとか。そこまで言うか普通?」
緩やかにバタバタさせていた足が、パタリと落ちる。同時に文句を言う口も止まった。
「はぁ……」
ため息が漏れる。さっきから、出て行く直前のルイージの顔が脳裏に浮かんでは消えている。
家を飛び出していった事も気になるが、勝手知ったる自分の街だ。とりあえずは大丈夫だろう。
それに万が一何かあっても、自分と同等の力を持つ双子の弟だ。自力で何とかできるはずだ。
それよりも、普段が仲の良い二人だから喧嘩したときの仲直りの仕方がよく分からない。小さい時はどうしてたっけ。
突然、部屋中にリズム良く電子音が鳴り響く。電話だ。
マリオはその音に飛び起きて、音が止まる前に受話器を取った。
「はい、もしも……」
『兄さんっ!? 兄さん、僕、商店街のくじ引きでマンション当てっちゃったよ!!』
受話器の向こうから、大きく響くルイージの声。興奮しているようだ。
だが、その内容にそれまで悶々と考えて用意していた言葉は綺麗さっぱり吹っ飛んだ。
「……はぁっ!? マンション!?」
『そう!! マンション!! それも一部屋とかじゃなくて、丸々一個!!』
「マジかよそれ! すごいな!!」
と、ここでマリオの頭の中にある考えが浮かんだ。
「お前、それどこのマンションだ?」
『え? えっとね……、町外れの、森の中……?』
「だったらオレのほうが近いな。オレ先に見に行ってくるわ!!」
『え!? でも、もう夕方だよ!? こんな時間から……』
「大丈夫だよ。お前は家に荷物置いてから来いよ。じゃ、いってきます!」
『あ、兄さ……』
ルイージの言葉も聞かずに、受話器を置く。
ルイージが到着する前に、準備を終わらせておかねば。ケーキも二つ、忘れずに。
マリオが思いついた仲直りの方法。
それは、先にマンションへ行って、ケーキ付きでルイージを迎えることだった。
いつもの癖で、『いってきます』と言ったことに気付かずに、家を出た。
「……切れちゃった」
プー・プー・プー……と、虚しい音が手にした受話器の向こうから聞こえてくる。
ルイージは呆れながら、受話器を置く。
脇には大量のキノコと、その他いっぱいが入った買い物袋が二つほど置いてある。
先程スーパーで買い物をした際、たくさん買い物したものだから抽選券を何枚かもらった。
抽選なんかやってたっけ?と首を捻りながらも、ケーキの気晴らしにとガラガラを一回まわしたのだ。
そしたらなんと、一回目で特賞が当たってしまった。マンション丸々一個。
あまりの出来事に、喧嘩していた事なんて忘れて兄に電話したのだ。
だがまさか、今から行く羽目になろうとは。
「……謝りそびれちゃったし」
途中で喧嘩していた事実を思い出して謝ろうとしたが、その前に切られてしまった。
まぁ、別に家に帰ってからでも遅くはないだろう。
二人でテーブルを囲んで、二人で温かい料理を食べて、二人で談笑しながらでも悪くはない。
遅くはないはずだ。
「……!?」
突然鳥肌が立って、後ろを振り返った。
しかし、そこには先程の抽選会場と、何かを当てて喜んでいるお客しかいない。
お化けが出るには、少々早すぎる。
……気のせいか
荷物を持って足早に立ち去るルイージを見て、抽選会場のおじさんがニヤリと笑ったのに気付いた者はいない。
先に謝っとくべきだったと、ルイージが後悔するのは 今夜。
end.
だってだって!私は絶対双子同棲派!!(同棲言うな同居と言え;
なのにルイジが外から兄に電話って言うのが納得いかなかったんですよ。で、この話。
最後のルイージのは、抽選のおっちゃんがテレサって事で。うちの弟は霊感有りな設定。
ちなみにあの後、兄貴は買ってきたケーキを机の上において、近くの冷蔵庫漁ってるうちにケーキが消えちゃってびっくりしてるといいよ。
で、お化け(見えない)に後ろから羽交い絞めとかされてぎゃあぎゃあ絶叫ってる設定だよ!!(細かいよ
ちなみにタイトルの夢って言うのは、夢の主役ってことです。
でも、当の本人はそれどころじゃないって言う。
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