それでは




恋愛談義を始めましょうか






 神様も知らない午後





「よっと」




 透き通るような青い空の下、屋敷の屋根の上に空と対照的な赤色が飛び込んだ。




「此処なら大丈夫かなっと……あれ」

「あ、兄さん」

「何だルイージ。オレの真似するんじゃない」

「僕が先居たよね!?」

「いいやオレだ」

「僕」

「オレ」

「僕」

「オレ」

「……もうどっちでもいいよ」




 屋根に飛び乗ったマリオと同じように、ルイージもそこに立っていた。

 とりあえず二人はその場に座る。

 屋根の下では、未だに何人かがうろついていた。

 それに混じって、子供組が目を隠し、木に張り付いて数を数えている。




「それにしても、なんで乱闘付きかくれんぼなんだ」

「別に普通ので良いのにね;;クレイジーもこういう事にばっかり頭働くんだから」




 子供組が数を数えている木の上に、張り付くようにしている巨大手袋・左を見ながら二人は呟く。

 事の始まりは数十分前。

 月に何度か来るその世界の創造主たる手袋一組が、またも屋敷に来たことから始まる。

 突然クレイジーが『楽しい企画』、もといかくれんぼを企画したのだ。

 しかし、これがただのかくれんぼではない。

 鬼は他の人を見つけた後に、乱闘で相手を戦闘不能にして初めて鬼を交代できるルールだ。

 ちなみにメンバーに拒否権はない。そんなこんなで半ば強制的にこの恐怖のかくれんぼは始まったのだ。




「まぁ、此処なら見つからないよね」

「滑ってこけるなよ」

「どんだけ間抜けなアドバイスなんだよ!」

「さぁー、姫はちゃんと隠れられたかなー」

「シカト!?」

「あれ? 先客ですか」




 随分と大きい屋敷のてっぺんで双子が漫才をやっていると、もう一人の緑色がその場に現れた。

 ちなみに鬼役の子供達はまだ下で数を数えている。




「リンク!」

「困りましたね;もうあまり時間もなくなってきましたし……」

「別にいいぞ。お前も此処に居ろよ」

「なんか僕のときと対応が違うと思うんじゃない?」

「そうですか? だったらお言葉に甘えて」




 ルイージの突っ込みも綺麗に無視して、リンクもその場に座る。

 そのまま地上を見下ろした。

 一際大きい声がして、子供達が散っていく。

 真っ先に木の上にいたクレイジーが見つかり、乱闘が始まった。




「はじまったね」

「姫は大丈夫かな……」

「ゼルダ姫も大丈夫でしょうか……?」

「……二人とも、そんなに心配なら姫のところに行けばいいじゃん」

「「見つかるからヤダ」」




 二人の答えにルイージは呆れる。

 そしてふと思う。自分の姫は今頃どうしてるだろうか。




「……二人ともいいなぁ。ワリオの代わりにデイジーが来ればよかったのに」

「来なくていい! あんなじゃじゃ馬姫!!」

「兄さんッ!? 確かにデイジーはじゃじゃ馬だけど、悪口言うなら許さないよ!?」

「てか否定しないのか」

「……デイジー? どなたですか?」




 突然出てきた知らない名前に、リンクは首をかしげる。

 その質問にマリオが簡潔に答えた。




「ピーチ姫の知り合いのお姫様で、ルイージのガールフレンド」

「がー……? なんです??」

「あー……、あれだ。彼女とか、恋人」

「えぇ!? ルイージさん彼女いたんですかっ!?」

「まぁ、その、一応……」




 リンクが驚きでルイージのほうを見ると、彼は耳まで真っ赤になっていた。

 それを見てマリオがからかう。




「顔が赤いぞー? ルイージ」

「う、うるさいやい! てか、僕よりリンクとゼルダはどうなのさ?」

「ゼルダ姫、ですか……? 別に何もありませんけど」

((うわ、鈍っ))




 真顔でこう言うリンクを見たら、ゼルダは凹むに違いない。

 ゼルダの方は気になっているのだろう。

 日々さりげなくアタックを繰り返しているのだが、いかんせん相手が鈍すぎる。

 思いが届くのは、まだ随分と先になりそうだ。




「それよりマリオさんの方こそ、まだピーチ姫に言ってないんですか?」

「……」




 当然の切り返しに、マリオは口を噤む。

 自分の事となるととことん鈍いリンクだが、いかんせん他人の事となると人一倍鋭い。

 マリオはため息を一つついた。




「……だけど、相手は『姫』だぜ? 無理無理」

「何言ってるのさ兄さん。僕のデイジーだって一応お姫様だよ」

「一応ですか」




 それ以前にさりげない独占主張に突っ込んで欲しいのだが、まぁ置いといて。

 マリオは屋根の下にいるだろう相手に思いを馳せる。

 どうやらクレイジーを戦闘不能には出来なかったのか、子供達は新たな獲物を求めて消えている。




「デイジーは第六王女かなんかだったろ。ピーチ姫は第一王女。ましてや他の王位後継者もいない。実質今だって治めてるのは姫だ」

「でも」

「いくらオレが人より少し腕が立って、有名で、スーパースターで、かっこよくても、所詮はただの配管工だ」

「兄さん、ナルシストが出てるよ」

「オレは人の上に立てるような器じゃねぇし、ただの一国民に振り向くとも思えないしな」

「今一瞬、話随分飛びましたよね。人の上に立つって」

「そこの緑色、茶々入れるの止めないか?」

「「緑色!?」」




 色で一括りにされた二人は、街中のおばさんのように顔をつき合わせて話し出す。




「緑色だって、緑色」

「もう少しまともなボキャブラリーはないんでしょうかねぇ」

「聞こえてるぞ、そこのエコカラー軍団」

「エコカラー軍団!?」




 隣で何か文句を言っているルイージはとりあえず無視することにして。

 本当は気付いている。ピーチ姫から特別に向けられた気持ちは。

 だが、それに応える訳にはいかないのだ。

 相手はお姫様で、自分はただの配管工。身分の差がありありだ。

 それだけじゃない。英雄という仕事をしているからには、どこで何が起こるか判らない。

 自分のせいで姫を悲しませるのは嫌だった。




「……オレは、今の関係で満足してるよ。もったいない位だ」

「兄さん……」

「……」




 大体、物語のエンディングではお姫様と助けた英雄は結ばれるんだけどな。

 兄の横顔を見てルイージは思う。

 単純な兄のことだから、何を考えてるかなんて手に取るように分かる。

 自分のように、素直になれたらいいのに。物語と違って現実は難しい。


 眼下ではどこに隠れていたのか、マスターが空中を漂っていた。

 神様でさえ、ここでの会話は聞いてなかっただろう。

 と、下から聞き慣れたかわいらしい声と、まったくかわいくない猫撫で声がした。




「ピーチちゃん! 今日こそ我輩の愛を受け止めてくれるのだ!」

「いやよ! マリオー!!」

「はん! 今はかくれんぼ中だからな。あいつが姿を見せるわけないだろう!!」

「……あいつは馬鹿か。んな理由でオレが出てこないと本気で思ってるかよ。じゃあな二人とも!」




 随分と慣れた、典型的な展開にマリオは立ち上がる。

 一つだけ伸びをして、ためらうこともなく姫の元へと飛んだ。




「クッパアァアァァ!! 姫から手を離せ!!」

「マリオ!」

「何っ!? かくれんぼ中だというのに出てきおったのか!! すぐに見つかるぞ貴様!?」

「馬鹿かお前」

「何だとぅ〜!? 我輩を馬鹿にするか!!」

「当然」

「……兄さん達も、よく飽きないよね」

「ルイージさんは行かなくていいんですか?」

「僕はいいかな。見つかっちゃうし」

「ルイージさんも、留守番慣れしてますね」

「……なんかヤだな。それ」




 二人は眼下のやり取りを見て呟いた。






 物語のハッピーエンドまでは、まだまだ遠い

 それはこの平和な物語が、まだまだ続くということ




fin.




この題名を使いたかっただk(爆
シチュエーションがあんまり話に意味を成してないですね;クレイジーに遊ばせたかったんです。
兄貴は身分とか他にもいろいろ面倒臭い事ばっかり考えて自分の恋に踏み切れないと思います。
逆に弟はそんなこと考えてないで、初々しい感じで二人でいちゃついてると思いますw
リンクは鈍いんです。とりあえず姫は護るべき対象としてしか見てないかも?
逆に姫のほうがアタックしてくるのに、気付かないww
そして最後のフレーズが自分的に好き。



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