空に輝く 恋人星に




あなたは何を願いますか?






 願い事




  ・




「ん……、あとちょっとっ」

「どうしたんだい? リュカ」




 リュカが振り返った先には、小さな紙切れを手にしたルイージが立っていた。

 同じような紙を持ったリュカが、困った顔で言う。




「短冊をかけようとしてたんですけど、届かなくて……」

「貸してごらん。つけてあげるよ」

「ありがとうございます!」




 リュカから短冊を受け取ったルイージは、大きな笹の前に立つ。

 笹は年に一度の晴れ舞台のために、綺麗に着飾られていた。

 既に多くの短冊が、飾りとともに掛けられている。




「どの辺がいい? ……この辺?」

「出来たらもう少し上がいいです」

「この辺、かな」

「あ、はい」




 リュカよりも随分と背の高いルイージが、少しだけ背を伸ばして笹の頂点に近い所へ短冊をかけた。

 その近くに、自身の短冊もかける。

 新たに増えたきいろと緑の短冊が、さらさらという笹の音につられるように揺れた。




「これでよし、と!」

「きれいですねー」

「リュカ達が飾り付けしてくれたからね。たまに見えるクリスマスの飾りが気になるけど」




 ルイージが見ている先には、ちらほらとクリスマス用のクッキーやキャンディーの飾りが輝いている。

 おそらくカービィ辺りが飾ったのだろう。




「リュカは何をお願いしたんだい?」

「……皆とずっと一緒にいられますように、です」




 ちょっと恥ずかしそうにリュカが呟く。

 そんなリュカが微笑ましくて、ルイージは頭をなでた。




「恥ずかしがることないじゃないか。リュカは優しいね」

「そ、そんな事……。それより、ルイージさんこそ何をお願いしたんですか?」

「僕? ……兄さんより活躍できますようにってお願いしたよ」




 ルイージがいたずらっ子のような笑みを浮かべる。

 だが、その笑顔はすぐに苦笑混じりのものとなった。




「まぁ多分、いつも通り留守番ばっかりなんだろうけどね。だから、もう一つ」

「もう一つ?」

「うん。裏にね、今年も兄さんが元気でいますようにって書いたんだ」




 笹の葉を見上げるルイージの顔は、とても穏やかで優しいまなざしを含んでいた。

 リュカもまた、同じような顔で、少しだけ寂しさを含みながら笹を見つめていた。




さらさらという音とともに、双子の弟たちの願い事一つ




  ・




「メータナーイト!」

「ん、どうしたカービィ」




 突然部屋のドアを開けて入ってきたカービィに向かって、メタナイトが冷静な態度で返事をする。

 何の連絡もなしに、ノックすらせずに部屋に乱入してくるのはいつもの事で慣れたものだ。

 その手にはいくつもの紙切れを手にしている。




「今から大王とヨッシーと一緒に短冊飾りにいくんだ! メタナイトも行こうよ!」

「いや、私は……」

「何ゾイ、まだ書いとらんのか」




 カービィの後ろから、デデデ大王とヨッシーもメタナイトの部屋に入ってきた。

 ヨッシーは、にこにこしながらメタナイトに向かって言う。




「せっかくの機会なんですから、何か頼んだらいいじゃないですか」

「俺様なんか、カービィをぶっ飛ばすって何回も書いたゾイ!」

「陛下、それは逆に怖いです」




 小さな短冊一枚にたくさん書き込まれた文字を見ていると、願い事というよりも怨念に近いものを感じてしまう。

 その間に、カービィがメタナイトの机の前にまで来ていた。

 手にした短冊をメタナイトに見せながら説明する。




「あのね、こっちがぼくので、『たくさんおいしい物食べれますように』って書いたんだよ。

 それでこっちがヨッシーの! おんなじこと書いてるんだよ」




 笑いながら説明するカービィの桜色の短冊には、文字といえるか分からないものが書いてあった。

 カービィのそんな笑顔を見て、メタナイトは思う。

 同じ星の戦士でも、こんなに純粋に生きられるのか。

 嬉しくもあり、少し羨ましい気もした。

 ふっと笑いながら、メタナイトはペンを手に取る。カービィの文字とは対照的に、こちらは達筆である。




「じゃあカービィ、私の短冊も一緒に飾ってきてくれ。ちょっと忙しくてな」

「わかった! なになに……?」




 メタナイトの許可も得ずに、カービィは手にしたメタナイトの短冊を読む。

 だが、その目は一瞬だけ驚きに染まり、すぐに嬉しそうな顔になった。




『この幸せな時がずっと続きますように』




キラキラと輝く笑い声とともに、星々の願い事一つ




  ・




「ゼルダ、あなたは準備できた?」




 ピーチがゼルダを振り返り言う。

 手には書き上げたばかりの薄桃の紙切れが握られていた。




「ええ。早速飾りに行きましょうか」




 微笑みながら振り返るゼルダの手にも、同じような薄紫の紙切れが握られていた。

 ゼルダの元へと駆け寄ったピーチが、その手元を覗き込む。




「ゼルダは何をお願いしたの?」

「『ハイラルが、平和でありますように』ですわ」

「あら。せっかくここに来ているんだから、今くらい国のことは忘れて自分のお願い事を書けばいいじゃないの」

「これが私の一番の願い事ですよ? ピーチこそなんて書いたのかしら」




 ゼルダがピーチの短冊を覗き込む。

 そこには『マリオともっと仲良くなれますように』と書いてあった。




「ここにいる間しか、あの人は私を対等に扱ってくれないもの。……ゼルダもリンクの事書けばいいのに」

「そ、そんな事……」




 ゼルダが顔を赤く染めて俯く。

 そんなゼルダの肩に手を置きながら、ピーチがゼルダを諭す。




「確かに私たちは姫よ。でも、例え叶わなくても気持ちだけでも伝えたいじゃない」

「でも、誰かに見られたら……」

「ここには誰も怒る人なんていないわ。……迷信かもしれないけれど、叶わないかもしれないけど、願ってみたいじゃない」




 ね、と可愛らしくちょこんと首を傾げるピーチの顔を見て、ゼルダは少しだけ笑う。

 まだ少し恥ずかしそうにしていたが。




「そう、ね……」




 ゼルダが再び、ペンを握った。





かりかりというペンの音とともに、夢見るお姫様達の願い事一つ




  ・




「「もちろん『借金返済』だ」」




 声をそろえて言うのは、きつね色の紙切れを持ったフォックスと、鮮やかな青色の紙切れを持ったファルコだ。




「あ、そうなのサ……」




 唖然としているのは薄茶色の紙切れを握っているディディー。

 二人のあまりに現実的な願い事に、拍子抜けのようだ。




「たたでさえ借金返済が大変だったのに、今回の事件でまたさらに借金が増えたんだぞ!?」

「さっさと、返済終わらせねぇと利子の方も半端ないことになっちまうからな」

「へ、へー……」




 ディディーは気を取り直して、ウルフのほうを振り返った。

 彼もまた、同じ様にグレーの紙切れを握っている。




「ウルフの兄ちゃんは、何書いたのサ?」

「……『スターフォックス撲滅』」

「てめぇ他にないのかよ;」




 ぼそりと呟いたウルフの物騒な願い事に、ファルコがツッコむ。

 ディディーはまともな答えを聞くのを諦めたのか、フォックスの頭に飛びつく。

 あの事件以降、ディディーはフォックスの頭の上に飛びつくことが多いのだ。




「……フォックス、それなんて書いてあるのサ?」

「だから『借金返済』だって。今言っただろ」

「や、でも……」




 どう見ても蛇がのたくった様にしか見えないそれは、借金返済を意味するようだ。

 言葉を無くすディディーの頭に手を置き、フォックスが質問する。




「そういや、ディディーはなんてお願いしたんだ?」

「おいら? おいらは『ドンキーとフォックスとファルコとウルフの兄ちゃんと、たくさんバナナ食べれますように』だよ!」




 あまりにディディーらしいその願い事に、一同小さく笑いが零れる。

 フォックスが、ディディーの帽子を顔の方に引っ張り落とす。

 それによって、ディディーの視界が一瞬真っ暗になった。




「うわっ」

「それじゃあ……この短冊を飾ったら、皆でルイージのところに行っておやつにしようか」

「ほんとうっ!? やったのサ!!」




 フォックスの頭から華麗に降りて着地したディディーは、少しだけ走ったあと、振り返り手を振った。

 その笑顔はとても嬉しそうで。




「みんな! 早く行くのサっ!」

「そう急がなくても大丈夫だろ。ドンキーも探さないとな」




 なおも嬉しそうに走っていくディディーの後ろに、フォックス、ファルコ、ウルフの三人は並んでついていった。




いろんな鳴き声とともに、どうぶつ達の願い事一つ




  ・




「やぁリンク、願い事書けたかい?」

「マルス……」




 リンクの目の前には、マルスが青色の紙切れを手に立っていた。

 互いの姿を確認した二人は、同時にニヤリと笑う。




「また、今年も?」

「あぁ。マルスもだろ?」




 二人がせーので見せ合った短冊には、同じ内容の願い事が書かれていた。




「「『強くなれますように』」」

「……どうかな、僕は前の七夕の時より、強くなったかな?」

「それはもう、憎たらしい位に」

「その言葉、そのままそっくりリンクに返すよ」




 二人が笑いあっていると、何処からかアイクが現れた。

 手には同じ様に青い短冊を握っている。




「……これはどうすればいい?」

「アイク。……それはね、笹の葉につけるんだよ」

「ホールのところで、子供達が大きな笹を飾り付けてただろ? あれに飾るんだ」




リンクが指を立てながら説明した。

アイクが二人に短冊を見せながら、鼻の頭を掻く。




「とりあえず願い事を書けと言われたから書いたが……」

「どれどれ……?」

「……『肉食べたい』」

「……またアイクらしい願い事だね」




 二人が苦笑いをしながらアイクの短冊を覗き込んでいる。

 反対に、アイクの方も二人の短冊を覗き込んでみた。

 内容を見たアイクが、小さく舌打ちする。




「チッ、そっちがあったか」

「そっちって何なのさ;」

「別に、どんな願い事でもいいんだからさ」




 少しだけ悔しがっているようなアイクをほおって、マルスとリンクがホールに向かって歩き出した。




「さぁて、僕たちは早く短冊飾って、また剣の修行でもしようか」

「そうだな。アイクは『肉食べたい』らしいから、俺ら二人で修練しよう」

「おいっ! こら、俺もする!置いていくな!!」




 意地悪な笑いを浮かべるマルスとリンクの後を、アイクが慌てて走っていった。




剣が響かす音とともに、剣士たちの願い事一つ




  ・




そこには、それぞれ紙切れを手にしたマリオ、スネーク、ソニックがいた。

三人とも、ペンを手にしたまま少しばかり唸っている。




「願い事、か……」

「ふむ……、何がいいものか……」

「フフン! オレっちはもちろん、これだぜ!」




 マリオとスネークが、ソニックの青色の短冊を覗き込む。

 そこに書かれてあったのは、『オレっちが世界でもっと有名になりますように』

 その願い事に、二人はカチンとした表情になる。




「ほぉおぉ〜? だったらオレは、『ソニックよりもっと有名になりますように』だ」

「だったら俺は『ソニックよりもマリオよりも有名になりますように』だ!」

「Hey! お二人さん真似してくれるんじゃないぜ!! だったら『二人よりももっとモテますように』を追加だぜ!」

「何ッ!? だったらオレは『ソニックよりもスネークよりも金持ちになれますように』追加だ!」

「フンッ! そんなことよりも、『二人よりもずっと強くなりますように』だ! いや、既に強いから意味ないか?」




 スネークの勝ち誇ったような顔を見て、カチンと来た他の二人はさらにヒートアップする。

 三人が三人とも、我先にとペンを進め始めた。




「オレっちは『二人なんか比にならないくらいの、もっと大きな冒険に行けますように』を追加!」

「はんっ! 二人ともそんな大雑把なのじゃ叶えてくれないぜ! 『攻撃力倍増』だ!!」

「ぬるいぞマリオッ! それなら俺は『攻撃力10倍アップ』だ!」

「攻撃力ばかりあげても、防御がなってなけりゃ負けちまうぜお二人さん! オレっちは『防御、スピードアップ』だ!」

「何っ!? だったらオレは『緊急回避上達』だ!」

「なら俺は『武器の改良』を追加するぞ!」

「そんな他力本願じゃいけねぇぜ! やっぱり自分の力で勝たないとな! オレっちは……」




 三人がそれぞれ負けじと、自分の短冊に願い事を書き加えていく。

 表だけでは飽き足りず、裏側にまでペンは進んで行った。


 数時間後、表も裏も真っ黒になった短冊が三つ、笹の頂点付近に見られた。




楽しそうな喧騒とともに、神々に選ばれた者たちの願い事一つ




  ・




 それまでの騒がしさが嘘のように静まり返っている。

 夕食は趣向を凝らしての流しそうめんだった。

 例によってファルコが何かしら言われていたが、いつも以上に楽しく騒がしい夕食だった。

 そうしていつも通り寝る直前まで騒いで、今はもうみんな眠りについている。

 ホールから庭に出した笹が、月明かりを浴びてキラキラと輝いていた。




「マスター」

「クレイジーか……」




 夜風にさらさらと音を立てている着飾った笹の前に、一組の手袋がそろった。

 その大きな笹いっぱいに、たくさんの短冊が飾りつけられている。




「見ろ、クレイジー。これが、かつて私たちが壊そうとしていた世界の姿だ」




 顔なんてないのに、はっきりと誇らしそうな表情を見せるマスターハンド。

 目の前に転がる、無数の願い事に満足な様子だ。




「……そうだな。あの時、本当に壊さなくてよかった」




 二人が黙ると、辺りは静けさにつつまれる。

 笹の葉だけが、さらさらと飽きずに音楽を奏でていた。




「マスター」




 ふいに、クレイジーハンドが何処からか、少し大きめの白い紙を取り出した。

 ペンも一緒に出てくる。だが、それは一組分しかなかった。




「もう一組足りないんじゃないか?」

「そんな事ないだろ。どうせ俺たちは、書くこと同じだろ?」

「……それもそうだな」




 白い短冊に、神は一つの願い事を書いた。

 その短冊を、笹の頂点に飾る。




「……もうすぐ、七夕も終わるな」

「そうだな。……天にいるって言う、お二人さんたちは無事に出会えたのかねぇ」




 上を見上げれば、天の川と呼ばれる星々の集まりが目に入る。

 その川を挟んでことさら輝く二つの星を見て、マスターハンドが言う。




「……会えただろうさ。これだけの願い事が集まったんだ。思いはきっと、橋になる。それに…」

「それに?」




 クレイジーハンドが夜空から目を離し、マスターハンドの方を見る。

 マスターハンドは未だに空に輝く、無数の星を眺めていた。




「……私達だって、無限に近い時を経て、ここのみんなと出会えたんだ。たとえ短い間とはいえ、願いは叶う」

「……そう、かもな」




 神々は、願いを託された笹を見つめる。

 それはさらさらとだけ、音を奏でていた。

 新たに増えた白い短冊が笹の葉と一緒に夜風にはためく。




『正義も、悪も、この世界に居る全ての生命が、幸せでありますように』




星が零れる夜に、神々の願い事一つ




  ・



















     会いたかったわ。……ずっとこの時を待っていたの。



                                僕もだよ……。ずっと、これからも、君を愛してる。





















空に輝く 恋人星に




あなたは何を願いますか?












fin.












一応フリー小説です。欲しい人は持ってっちゃってください!
七夕なので、七つの小話です!目標は『綺麗なお話』
読んでいてこれ綺麗だなって感じていただけたらうれしいです。

それぞれの話に目を向けますと… ・リュカはMOTHERネタ引っ張らないように注意した。(願ってもどうにもならないし
・カービィいつもより幼いよ!
・ウルフのキャラ、ちょっと不安定;桃太郎トリオ+狼は嫌いじゃないんですが、やっぱりDKのこと忘れないで欲しいよ!
・やっぱり今のご時世、マルスとアイク、リンク辺りが人気なのでこいつらを。二人してアイクいじってるといいよ!
・あの三人は、いつも喧嘩してるといい。そして負けず嫌いだといい。止める役は弟だとなおいい。(←
・これが一番『綺麗な話』を意識して書いた。マスター達の言ってる内容は、拍手より
・織姫さんと彦星さんです。その場の思い付きで、ゲスト出演

結構満足してる小説です!…皆さんから見たら、どうでしょうかね(苦笑


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