一年に一度、私の大切な人へ。
貴方に贈る、甘い想い
* 幾世もの私の勇者様へ
コンコンッと叩かれたドアに、顔を上げて、どうぞと声をかけた。
失礼します、と聞き慣れた少し高めの声とともに、ドアの向こうからゼルダ姫が顔を出した。
「今、大丈夫かしら……?」
「ええ、大丈夫ですよ。どうかされましたか」
朝食後の素振りへ向かう前に、少し手入れでもと手にしていたマスターソードを、ベッド脇の壁に立てかけた。
部屋に入ってきたゼルダ姫はいつもと様子が違って見える。
いつもの冷静沈着な彼女とはうって変わって、落ち着きがなく、顔も少し赤い気がした。
「大丈夫ですか、風邪でも引いてるんじゃ」
「ち、違います! ……これ」
気恥ずかしそうに差し出されたのは、透明な箱に入った一つのチョコレート。
そこではじめて気が付いた。今日はバレンタイン。
そういえば、遅れていった朝食で、デデデがなにか騒いでいたような気がする。
「い、いつも助けてもらっていますから……!」
「あ、ありがとうございますっ」
受け取った箱の中には、ハートのチョコレートが一粒。
透明な箱の中に、ちょこんと鎮座している様子がかわいくて、姫らしいなと思った。
箱も、とても綺麗で、まるできらきらと輝くガラスの箱のようだ。
しかし、爪先でコツコツと叩いてみるも、硬い。
どうもガラスとは違う印象を受けた。
「(飴細工かな?)」
「その……この間、街に行ったときに、血液をチョコレートに入れるというおまじないの話を聞いて」
「へぇ……、え゙っ!?」
「でもやはり、それは衛生上よくないと思いまして……」
「(よ、よかった……)」
内心ほっと胸をなで下ろす。血を混ぜるなぞ、いったいどんな恐ろしいおまじないなのか。
気を取り直して、箱を開け……られない。
開閉部が見当たらない。継ぎ目も綺麗で、叩いてみても壊れることもなく。
慣れ親しんだ感覚に、なにか身近なものであろうことは確かなのだが、飴ではないようだ。
「なので、代わりに」
「代わりっ!?」
ぎょっとして顔を上げると、ゼルダ姫は恥ずかしそうに左手を頬に当てていた。
「魔力を込めてみました」
「……」
「ネ、ネールの愛ですっ」
「……お気持ちは大変嬉しいのですが、解除していただかないと中のチョコレートが食べられません」