一年に一度、私の大切な人へ。









 
 貴方に贈る、甘い想い
    








* ある王子の苦悩








先ほど昼食を食べたばかりだというのに、ネス、トゥーンリンク、リュカ達は、さっそくチョコレートを取り出しては
その数を競っている。

色とりどりのラッピングで飾られたチョコレートを手に、あれがいいだの、これがいいだの、
たまには押し黙ったりしているのを、紅茶を片手に眺めていた。




「バレンタインは、本当は男性から女性に花を贈る日なんだけどな」

「まぁ、子供達にとっては一年に一度の、想いを伝える機会なんだろう?
 日ごろの感謝をすること自体はいいことじゃないか」




珍しくアイクがまともなことを言っていると彼を見やれば、向かいの席に座ってドーナツを頬張っている。

彼の目の前には、大量のラッピングの山ができていた。




「その状況で言っても、あんまり説得力ないなぁ」

「もらったものは大事に食べるべきだろう」

「まぁ、それはその通りだね。ところで、君はさっきからドーナツばかり食べているけど、
 そんなにドーナツ好きだったっけ?」

「いや……。なぜか届くものが、ドーナツばかりなんだ」




首を傾げながら、チョコレートのかかったドーナツを眺め、噛りついた。

これで三つ目。昼食を食べた後だというのに、よく食べる男だ。




「そういうお前だって、たくさんきているんだろう? あのデデデがあれだけもらっていたんだ。
 お前ならあの倍は、国からもらっていてもおかしくはないだろ」

「さっきも言っただろう? バレンタインは本来、男性から女性へ贈り物をする日だ。
 今日は僕は、シーダに花を贈ったよ」




紅茶のカップを口元へ持っていき、その香りを大きく吸い込んだ。

甘い香りが、胸一杯に広がる。紅茶の名前は『ホワイトチョコレート・ティー』

今朝届いたばかりの紅茶だ。





「僕はコレで充分さ」

「ほぅ」

「ねぇねぇ! 二人はチョコレートいくつもらった?」



さきほどまでソファでワイワイ騒いでいたネスが、両手にチョコレートを抱えてやってきた。

トゥーンリンクもリュカも、そのあとについてやってくる。

ソファの方も見ると、どうやらチョコレート戦争はリュカに軍配が上がったようだ。

妙に高そうなラッピングや、キスマークの付いたメッセージカードが付いたものなどがあるような、
……いや、見なかったことにしよう。




「アイクさんはドーナツばっかりなの?」

「あぁ、そうだ」

「ドーナツかぁ、いいなぁ。マルスは? いっぱいもらってそうだけど」




何度目かになるその質問に、苦笑いを浮かべた。

肩をすくめながら、空になったカップに二杯目の紅茶を注ぐ。

再び立ち上る、甘いあまい香り。




「僕はもらってないよ。いいかい? バレンタインは本来、男性から女性に日ごろの感謝を込めて花を」
「え、なに。マルス、ひとつも貰ってないの?」

「えぇー、嘘だぁ。マルスに限ってそれはないよ」

「いや、だからね」

「マルスさんいくつ貰ったんですか?」

「……」

「言ってやれよ、いくつ貰ったか」

「……え、まさか本当に、ひとつも貰ってないの?」

「うわ、マルス兄ちゃんだっせぇ。王子なのに」

「リ、リンク。ダサいとかそんなこと言っちゃだめだよ」




アイクの笑いをこらえる顔が、ネスの驚いた顔が、トゥーンリンクのこらえられない笑い顔が、
リュカのアワアワとあわてたような顔が。


すっ、と椅子から立ち上がり、ひとりキッチンへ。

ドアを開けると、見慣れた緑の影がこちらを振り向いた。




「マルス、どうしたんだい?」

「ルイージ。今日のおやつはチョコレートだよね? いつ頃できるんだい?」

「チョコレートクッキーを作るよ。下準備は朝のうちにしていたんだけど、型抜いて焼くのは今からさ」

「よし、僕も手伝うよ。早く作ろう」




背後から、みんなの笑い声が聞こえてくる。

目の前では、ルイージが不思議そうに首を傾げていた。