なんでこんな所にいるんだろう
いつもなら、迷子なんてならないのに
夜蝶
19
「ここ、何処だよ〜」
泣きそうになりながら、呟く。
辺りを見回しても誰もいないし、見たこともないような景色ばかりが続いている。
いや、以前どこかで似たような雰囲気の場所に行った気がしないでもないが、思い出せない。
手に白いマーガレットの花束を抱え、目に優しい緑を基調とした服装をした男が不安気に辺りを見回した。
「このままじゃ、約束の時間に遅れちゃうよ…」
随分長いこと迷っているのだろう。握り締めた花束は、もう随分とくたびれてしまっていた。
それを見て、男はさらにため息をつく。
頭の中では、大事なお姫様が『ルイージの馬鹿ッ!』と、自分を殴っている図が浮かんでは消えていく。…情けない。
とりあえず、立ち止まっていてもどうにもならないので、前に進むことにした。
慣れた道のりのはずだったのだ。途中までは。
いつもの通い慣れた道を歩いていたつもりだったのに、途中から周りの雰囲気が変わってきた。
ほのぼのとした雰囲気に、のんきに散歩気分でいたらこの有様だ。
「公衆電話とか、どっかないかなぁ」
せめて連絡だけでもと手段を探しては見るが、辺りはだだっ広い草原と、人が歩き続けて作られた道しかない。
たまに見かける黄色のブロックに既視感を覚えながら、ルイージは歩き続ける。
と、突然近くの草むらからガサリと音を立てて何かが出てきた。
「ひゃあぁぁああぁっっ!?」
突然の物音に、驚いたルイージは飛び上がる。
草むらから出てきたそれは、赤い球体。
何年か前に、似た様な生き物と知り合いになった事があった。
「カカカービィ…?」
だが、振り返ったそれは旧知の友ではなく、全身瞳で占められている生き物だった。
「ぎゃあぁぁあ!!一つ目お化けぇー!!!」
両手を万歳するかのようにしてその場から走り出す。
その拍子に花束を落としてきてしまったが、それどころではない!
とにかくひたすら走った。
「はぁっ、…ここまで来たら、もうっ大丈夫かな」
落ち着いてきたのか、ルイージがスピードを落とす。
胸に手を当て、肩で息をしている。
そこに、またも前方から赤い球体が歩いてきた。
思わずびくつくルイージだが、今度はちゃんと目が二つあるようだ。
とはいえ、見知らぬ生き物には変わりない。
思わず戦闘態勢をとってしまった。腰が引けているが気にしない。
赤い球体はテクテクと道を歩いてくる。
ルイージは後退りながら道をあけた。
それを愛らしい目で一度だけ見て、赤い球体は歩いていった。
「はぁ…」
何も起きなかったことに、ルイージは胸をなでおろす。
さぁ前に進もうと正面に向き直ると、先ほどの赤い球体がもう一体。
「ひぃっ」
再び戦闘態勢をとったルイージの後ろに、黒い影があらわれた。
「俺様んところのワドルディ達に…」
「ん?」
「手を出すなぁぁあぁ!!!」
ルイージが後ろを振り返る間もなく、背中に衝撃が走る。
一瞬だけ息がつまり、空に投げ出されたところで意識を持っていかれた。
空からハンマーの上に落ちてきたソレを、そのまま後ろにほおり投げる。
振り返れば先ほどの男にそっくりな、大きなフィギュアがあった。
「フンッ!俺様んところのワドルディに手を出すからこうなるんだゾ…ん?人形?」
確か殴り飛ばしたのは、生きた人間だったはず。
しかし落ちてきたのはただのフィギュア。
首をかしげるその周りに、ワドルディと呼ばれた赤い生き物がわらわらと集まる。
「どういうことゾイ?…本当に人形だよな?」
「大王さまぁ」
大王と呼ばれた一見ペンギンのような生き物が人形をペシペシ叩いていると、
輪の外から一匹のワドルディが走って寄ってきた。
「ん、どうしたゾイ?」
「向こうの方から、何か変なのに乗った、同じようなヒゲが来るっス〜」
そのワドルディの走ってきた方向を見ると、確かに何かが起こしていると思われる砂埃が舞っていた。
そう遠くない。
「…いったん隠れるゾイ!!」
「「はぁい!」」
大王とワドルディ達は一斉にその場から離れる。ルイージのフィギュアを置いて。
(なんで置いてきたゾイッ!)
(痛っ!殴ることないじゃないっスかぁ…)
「んん?これは…、あの影薄い奴のフィギュアじゃねぇか」
砂埃を引き連れて姿を現したのは、車のような物に乗った太った男だった。
車には他にも二つほど似たようなフィギュアが入っている。少年のものと、女のものだ。
男は車から降りてフィギュアを手にして笑っている。
(大王様、あいつなんかキモイッス)
(そんなことより、あの車!!欲しいゾイ!!中身も!)
「そういやぁ、こいつもメンバーの一人だったけな。手間が省けたぜ!!」
「みなのもの、行くゾイッ!」
「ん?」
どこからか聞きなれない声が聞こえて振り返ると、すぐさまその身体はワドルディ達に取り囲まれた。
「うおぉっ!?何だこりゃ!!」
思わず手にしていたフィギュアを落としてしまった。
それは都合よく自分の乗ってきた車に入る。
「よっし!みんな行くゾイ!!」
車に乗り込んだ大王が、勝手に車を発進させる。
もちろん、置いていかれたワドルディ達は必死になってそれを追いかけていった。
「置いてくなんて酷いッス〜」
「まってぇ〜」
「…人使いの荒い人ッス」
それまでワドルディに揉みくちゃにされていた男が解放された時には、自身の車は既になかった。
←
Top
→