逃げたんだ




必死だったなんて 言い訳にならない




みんなを助けられなかった






 夜蝶
    04







さぁて、どうするかなぁ




カービィは自分の何倍もある巨大パックンフラワーを見上げた。

それは相変わらず凶悪な口を歪めて、よく分からない奇声を上げている。




…明らかにあの口で攻撃してくるって感じだよね




ひとまずカービィは、その巨大な頭(口?)を狙うことにした。




「ハンマー!」




カービィの声と共に、その小さな身体に不似合いな大きなハンマーが出現する。

先程までの試合と異なり、これは正式な乱闘ではない。

それ故に、攻撃手段はコピーの素から得ることにしたのだ。




「ここから出しなさいっ!ボスパック…きゃあ!!」

「きゃあぁ!!」




カービィがハンマーを構えると、ボスパックンは警戒したのか籠を大きく振り回してきた。


中のピーチ達はたまったもんじゃない。悲鳴があがった。


対するカービィは、その小さな身体を活かしてその攻撃の中を一直線にすり抜けて

一気にボスパックンの頭の上にまで出る。


そのまま、手にしたハンマーを振り下ろした。




「やぁっ!」




ある程度手応えは感じた、はずだった。

攻撃を受けて一瞬行動を停止したボスパックンは、しかしすぐにまた籠を振り回して攻撃してきた。

重い一撃を与えたカービィは重力にしたがって落ちていく途中だった為、攻撃をもろに喰らってしまった。




「わっ!…っく」




地面に叩き付けられたカービィは、ボールのようにバウンドして転がる。

跳ねる様にして起き上がると、あたりが急に暗くなった。

それにボスパックンの姿も消えている。




「え?」

「きゃあぁあ!!」

「カービィ!!」




ピーチの悲鳴と、ゼルダの声がする方を見上げると、ボスパックンが頭上に迫っていた。




「えぇー!?うっそぉ〜!!?」




転がってなんとかボスパックンの攻撃を避けた。

そのまま起き上がり、走って距離をとる。




「あれ一応植物だよねぇっ!?動く植物なんて、ウィスピーウッズだけでじゅうぶんだよ!!」




と、そこでカービィはあることに気づいた。

急ブレーキをかけて振り返る。

手にしたハンマーをその辺にポイッと捨てた。




「そうだよ植物じゃん。だったら、バーニング!




突如カービィの身体が炎に包まれる。

そのままものすごい勢いで、ボスパックンへと一直線に突っ込んだ。

植物であるボスパックンとしては、たまったもんじゃない。

籠を振り回して攻撃をかわそうとするが、カービィに籠が届くよりも早く炎の塊がぶつかった。

炎がボスパックンの身体を舐めるようにして一気に広がる。

カービィはボスパックンに振り落とされないようにしながら、近くにあったピーチの籠を壊しにかかった。



しばらく炎から逃げようと奇声を発しながら暴れていたボスパックンだったが、ついに火を消すことなく倒れた。




ドォンッ!




「うっわ!」

「きゃあぁあ!!」

「きゃあ!」




カービィがピーチの籠を壊すよりも早く、ボスパックンを中心に大爆発が起こった。

爆発の衝撃でピーチの籠が壊れ、二人は爆風に乗ってその場を離れる。




「ゼルダはっ!?」

「あそこよ!」




先の爆発でピーチ同様籠が壊れたのか、中から這い出てくるところだった。

一見した感じでは怪我はしていないように思う。




「よかっ「がっはっはぁっ!!」

「!?」




カービィの言葉を遮るようにしてあがった、聞きなれない笑い声。

否、一人だけはこの声を知っていた。




「次は何っ!?」

「この声…、ワリオッ!?」

「あたぼうよっ!ワリオ様の登場だ!!だが、姫さんに用はねぇな!」




ガンッ




重い音を響かせて、身の丈程もある巨大な機械を取り出した。

それが何かを問い詰めるよりも早く、その先端に黒い光が集まる。

延長線上には、まだ立ち上がれずにいたゼルダがいた。

そのゼルダに向かって、黒い光から黒い矢印が放たれる。




「いけぇっ!」

「ゼルダッ!!」

「っく、ネールの…」




ゼルダはネールの愛でガードしようとするが間に合わなかった。

ゼルダの身体を黒い矢印が突き抜ける。

体が光に包まれ、光の中からゼルダのフィギュアが出てきた。

当然、ゼルダ自身の姿は見えない。




「ゼルダッ!」

「ワリオッ…なんてことを!!」

「姫さんと違って、こっちの姫さんは今フィギュアにしとかないと厄介なんでな」

「っ!!」

「おっと、そろそろ時間だ。…あばよっ!」




そういうとワリオはゼルダのフィギュアを担いでどこかへ消えた。

ワリオの後を追いかけようとピーチとカービィが走り出す。




「待ちなさいっ!!」

「ん?」




走っている途中で、先程の丸い物が、そこにあるデジタル盤が目に入った。

それに気づいたカービィの血の気が引く。




「…っピーチ!!」

「え?」




カービィの危険を察知したのか既に真横についていたワープスターに、ピーチの手を引いて乗り込む。

デジタル盤は、"0"の字を刻んだ。





カッ




それまでざわめいていたスタジアムが、まるで音すら吸い込まれたかのように、静寂に包まれる。

と、爆心地で生まれた黒い空間が一気に広がり、スタジアムを飲み込んだ。

カービィ達にも遠慮なく、強大な引力が掛かる。




「うっ、く…。がんばってワープスター!!」

「す、吸い込まれる…!」




黒い空間はスタジアムを丸々飲み込むと広がりを停止。

ワープスターは、そのままなんとか逃げ切った。




「はぁっ。でもみんなが…、観客のみんながっ!」

「マリオ、ゼルダ…!」




カービィの目から一粒の涙がこぼれる。

ピーチの顔も、心配そうに歪んでいた。




ゴゥンッ




「「っ!?」」




カービィとピーチが振り返ると、先程の戦艦ハルバードが再び姿を現す。

それは既に後ろに迫っていた。




「…っ、ちゃんとつかまってて!ピーチ!!」




カービィはそう言うと、ピーチの返事も待たずにワープスターを急発進させた。









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