まだだ




まだだ





まだ、やらないといけない事がある





 夜蝶
    06





ものすごい勢いで天から落ちる。

ピットは背中の翼を折りたたみ、扉から落ちた勢いそのままで落下していた。

どういう原理か、頭は上のまま姿勢を保っている。




…さて、どうするかな




命令どおりに出撃してはみたけれど、知っていることは少ない。

あの四人は仲間同士

敵は変てこな戦艦に乗っており、黒い雪を降らせて援軍を増やす

大きくて丸い鉄の塊は何かの爆弾で、ブラックホールのようなものを生み出す




…この辺かな




ピットは折り畳んでいた翼を広げ、一つだけ羽ばたいた。

それで落下の勢いを殺し、一面の雲の上に降り立つ。…相変わらずどういう原理か分からないが。




「ふぅっ。とりあえずボクはさっき飛ばされた人を探してみよう」




さっきの試合や戦いから見ても、彼の戦力は必要なものだ。

ピットが雲の上を一歩踏み出そうとすると、頭上からとんでもなく大きな音が聞こえた。




「うわっ、何だ!?」




上を見上げると、先程の、いわゆる変てこな戦艦が頭上を通り過ぎて行った。

ピットの上空を通る時、船底のハッチが開き、先程のスタジアムのと同じ、黒い雪を降らせる。




「…ご丁寧にどーも」




聞こえるはずもないが、とりあえず皮肉を言っておくことにした。

先程の水鏡の映像と同じく、積もった黒い雪から変な兵士がたくさん生まれてくる。

ピットは、先程女神・パルテナにもらった神弓を取り出した。軽い。

少し振ってみると、すぐに手に馴染んでくるのが分かった。

軽い割には、強度はちゃんとありそうだ。


ピットが構えると同時に、兵士達が飛び掛ってくる。

神の加護を受けた弓、もとい剣を一振りすると、その先にいた兵士達が一斉に消えた。

大して強くもない。

しかし、それ以上の兵士が黒い雪の中から生まれてくる。


やはり、このままだとキリがない。

ピットはひとまず、倒しながら前に進むことにした。




進んでいると、ある地点で雲が途切れていた。

黒い雪も途切れていて、兵士達の姿もみえない。




「…んっ、あれは…」




目の上に手をかざして遠くを望んでいたピットは、雲の上に目当てのものを見つける。

そこまで駆けていく。あった。彼のフィギュアだ。




「…でも、どうすればいいんだろう」




フィギュアのままじゃ、戦えない。

かといって、フィギュアから戻す方法もわからない。




…とりあえず持っていって、残り二人のうちの誰かに訊こう。




少し大きいが、持っていこうと手を伸ばす。

金色のプレートに指先が触れると、フィギュアが光を放った。




「えっ、えっ!?」

「…ぅ、ん。ここは…」




フィギュアから元の姿に戻った彼は、頭を振る。

と、目の前にいる天使に気づいた。

その瞳が驚愕に開かれ、次の瞬間には絶望の色に染まった。




「天、使…?オレは、死んだのか…?」

「は?」

「雲の上だし、ここは天国か…?」

「え、何言って…」




しばらく打ちひしがれていた彼だったが、急にピットに掴みかかってきた。




「うわっ!…えっ!?何でs」

「頼む!お前天使だろ!!オレにはまだやらないといけないことがあるんだ!!オレを生き返らせてくれ!!」

「ちょ、ちょっと、何なんですか!?とりあえず落ち着いて…」

「落ち着いていられるかっ!時間がないんだ!!姫のところに、爆弾が…!」

「落ち着いてくださいってば!」

「っ!」




ピットに怒鳴られて、彼は正気に戻る。




「…悪い、取り乱した」


「いえ…、あなたが言っているお姫様はたぶん大丈夫です。それに、あなたも死んでません」


「えっ、でも此処は…、それにお前も…」


「此処は天界と地上を結ぶ、雲の上です。ボクらは『雲海』と呼んでいます。あなたがフィギュアになって、此処まで飛ばされただけです。

それに、ボクは確かに天使ですが、あなたたちの手助けに来ただけです」


「…オレは、一瞬お迎えが来たのかと思ったぜ」


「…なんですかそれ?地上の迷信かなんかですか?」




彼は胸に手を当て、心底安堵したというように息を吐く。

とりあえず落ち着きを取り戻したようなので、自己紹介に入る。




「改めて、ボクはピットって言います。天界に住む、女神・パルテナ様の親衛隊長を務めてます」

「よろしくな。オレはマリオ、キノコ王国の…、一応英雄だ」

「よろしくお願いします。…さっきの試合、ボクは天界の水鏡から見てました。…マリオさんが飛ばされた後のことも」




ピットの言葉に、マリオは静かに耳を傾ける。




「あなたが飛ばされて、二人の姫が大きな花が持つ籠に囚われちゃいました。

あなたの相手をしていたピンクいのがその花を倒して、姫を助けたんですが…」


「どうした」


「一人、ピンクのドレスを着て王冠を被ってないほうの姫が、突然現れた何者かにフィギュアにされました。

その後、爆弾が爆発。ピンクいのと王冠の姫は、星に乗ってどこかに逃げました。」


「王冠…、だったらピーチ姫は無事か。よかった。…星はカービィのワープスターだろう。でもゼルダ姫が…」




マリオは頭の隅で、早く助けないとリンクに何されるか判ったもんじゃないなどと思った。

身長の高い、ピットを見上げる。




「その、『何者か』って言うのは、どんな感じの奴だったんだ?」


「そう、ですね。えっと、黄色のヘルメットを被ってる、太った人でした。

それで、頭がすごく大きかったです。…マリオさんとあんまり変わらないくらいの身長でしたよ」


「…えらい言われようだな;」




それでも、その条件に合う人物に、マリオは心当たりがあった。


ワリオ


自称・自分のライバルだとか抜かしている、トレジャーハンターだ。

しかし、彼があの場に居る理由には、心当たりはない。

第一、スマブラメンバーと観客以外、あの捻じれた空間に入れることがおかしい。

と、マリオはさっきまで自分がフィギュアだったことを思い出した。

フィギュアになるのはスマブラメンバーだけで、あの特別な空間だけのはず。

フィギュアの解除が出来るのも、スマブラメンバー同士のみだったはずだ。




(……また何か、変なことになってるな)




「ピット、だったか?そいつがどこに行ったか判るか?」

「いや、爆発に紛れてしまって…」

「そうか…じゃあ、姫達は?わかるか?」

「えっと、多分…あっちの方」




ピットが指差す方向、それは先程、戦艦ハルバードが飛んでいった方向だった。










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