なんで…君が、







こんな所に









 夜蝶
    10










年端も行かない少年が、廃墟の中を歩く。

周りには、元は檻だったのであろう、錆び付き、崩れ落ちている棒状の物が連なっている。




「ボ、ボニー?…どこ行ったんだよー」




一人が心細いのか、かなりビクビクしながら荒廃した動物園の中を歩いていく。

周りに、人の気配は一切ない。




「ボニー…?どうしよう、此処、どこだろう?」




どうやら、迷子のようだ。

時折不安げに周りの様子を窺っている。




「……?」




つい一瞬先まで一切感じられなかった気配が、一気に増える。

不穏な気配に振り返れば、黒い綿のような物から見たこともないような生き物が

キノコか何かのようにニョキニョキと生えてきた。




「ぅ、わぁ…!」




ガンッ




「ひゃあぁあっ!?」




突然、少年の後ろから大きな物音がした。

驚いた少年は、飛び上がって過剰な反応を見せる。

振り向いた先には、巨大な石像が異様に長い手足を器用に振り回していた。




あ、れは…っ!ニューポークシティで見た…!!




石像を見た少年の頭に、ある事件がフラッシュバックする。

石像だというのに、器用に手足を動かして、少年に歩み寄ってきた。

煩い位の足音に押されるように、少年は背を向けて走りだす。全力で。




…もう、もう嫌だ! 戦いなんて、あんな事も、もうっ絶対、嫌だ…!!




息が上がるのもお構いなしに、全速力で走り続ける。

だが、幾ばくも走らないうちに少年は倒れた。




「…っ!?」




見ると、右足が崩れ落ちた檻の一部に挟まってしまっていた。

再び走り出そうと、右足を懸命に引っ張る。びくともしない。

そうこうしている内に、石像は少年まで迫ってくる。




「……っ!!!」




ダメだ…っ!




恐怖に駆られて、目を閉じて縮こまる。

そこに、また新しい足音が聞こえた。





「PKサンダーッ!」




小さな渦巻く光が、今にも少年を踏み潰そうとしていた石像を頭から倒す。

と、同時に、先程の軽い足音が自分の目の前から聞こえた。

その音と、慣れ親しんだ力の発動に、縮こまっていた少年がうっすらと目を開ける。


デジャヴ


その後ろ姿が、ありえない彼と、ダブって見えた。




…クラ、ウス?




「PK、フラーッシュ!」




突然現れた野球帽を被った少年から、まばゆいばかりの緑色をした光がふわりと現れる。

その光は、過たず石像に向かっていく。

急な方向転換は出来ないのか、なす術もなく石像に光が吸いこまれていった。



「あ…」




光を取り込んだかに見えた石像から、先程の緑色の光が溢れてくる。




バァンッ




「……ッ」

「うわっ…!?」




突如、石像が爆発した。

爆発で起こった砂塵の中から現れたのは、以前の事件でも見た、巨大な蟹のような機械。

足部分の機械の音が、やかましい。




…あれはっ

「ポー、キー…?」

「っ!?」




意外なところから、その名前が出た。

倒れている少年の前に立っている野球帽の少年が、あの機械を凝視している。。

まだ残っている緑の光の残滓を片手で払うその姿は、片割れの彼を思い出させた。

だが、彼ではない。

機械から無理やり目を離して振り返った少年の顔は、彼の、そして自分のものとは明らかに違っていた。





「大丈夫?…もう大丈夫だから、安心していいよ」












 Top