もういやだ
もうヤだよ
これ以上戦うのも、誰かを失うのも
夜蝶
12
「リュカ、そっちからまわって!僕が合図したら最大攻撃!!」
「は、はい!!」
野球帽の少年がポーキーの攻撃を避けながらリュカに指示を出す。
なぜ名乗ってもいないのに名前を知っているのかという疑問は、リュカの頭にはない。
足を鋭く突き出してくるポーキーの後ろから少年と反対の方にまわる。
二人に左右から囲まれ、空に逃げようとしたのだろう。
突く攻撃を止めて、飛ぶために一瞬しゃがんだ。
「今だっ!」
少年の掛け声と共に、こっそりと溜めていた力を一気に放つ。
少年と、リュカ。同時にそれは放たれた。
「PKキアイ!!」
「PKLOVE!!」
二つの力の濁流が、ポーキーにぶつかる。
その力に対して、何も出来なかったポーキーが乗っていた機械は、一度だけ小さくバチッと鳴って、爆発した。
「うわっ」
「…っ」
爆発の煙が切れた後には、ぶすぶすと燻っている機械の塊があった。
それを見たリュカは、まるで糸でも切れたかのようにその場に座り込む。
「わっ、大丈夫!?」
「…は、はい」
そう言いつつも、リュカは両腕を抱え込んで小さく震えている。
少年はその状態に驚いて、リュカのもとへと駆け寄った。
「本当に大丈夫なの?」
「…はい。ただ、ボク、戦うことが怖くて…。またあんな事が起きたらと思うと…」
リュカは、外見からしてまだ小学生くらいだろう。
そんな小さな子供が、何度も戦いに巻き込まれるというのは、精神的にも酷なことだった。
対する少年も、年の差はあまり変わらない。せいぜい中学生ぐらいだろう。
しかし、こちらはもう少し、戦う事に慣れているようだった。
リュカの小さく震えている方に手を置く。
「…大丈夫だよ、リュカ」
―大丈夫だって、リュカ…
「…っ!」
再び、少年の姿が"彼"と被った。
「…もう、これ以上、戦いなんて…っ」
ガンッ
突然の物音に、二人は同時にそちらに顔を向ける。
見上げた先の高い岩場の上には、なにやら巨大な機械を持った男がこちらに標準を合わせていた。
「はっ!ターゲット、二人も確認だぜッ!!」
「なっ…」
まずは赤い帽子の少年を狙うことにしたのだろう。
少年に向かって、機械の先を合わせて、黒い矢印を放つ。
危険を感じた少年はすれすれの所でそれをかわす。
「くっ…」
「むっ。…ガキのクセして!」
ムキになった男は、少年に向かって何発も連発して矢印を放つ。
それでも、少年は器用にそれを避けていった。ヒラリヒラリと。
リュカは、座り込んだままそれを見ている。
「あっぶな…」
「くっそ!…ま、いい。こっちを先にするか!!」
「…!?」
突然向けられた機械の先から逃げようと動く。
だが、座り込んでいたことで反応が遅れた。
「おねんねしてな!!」
「あっ…」
「!!リュカッ!」
機械から放たれた黒い矢印が目の前に迫る。間に合わない。
男が一瞬ニヤリと笑ったのが見えた。
と、いきなり身体を横から突き飛ばされた。
「…っ!」
「がっはっはっは!!まんまと騙されやがって!!」
機械を肩に担いで、男が地上に降り立つ。
何故か人形と化した少年の頭を掴んで、笑い飛ばした。
その光景を見て、リュカは恐怖に襲われる。
フラッシュバックするのは、大事な人を、片割れを失ったあの事件だ。
「う、あぁあぁぁぁあぁっ!!」
リュカは、その場から、現実から逃げ出した。
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