分からない。何も





でも、後悔ばかりが





この胸を占めていた






 夜蝶
    17





どれくらいの時間、歩いていたのだろう?

今にも雨が降り出しそうな曇り空では、太陽の位置など分からないし、時間も分からない。

ただ分かっているのは、また逃げてきたことだけ。

逃げないと決意した。その数分後には、もう背中を見せて走り出していた。

自分が嫌になる。いつもいつもいつも…っ!

うつろな目をして歩いていた少年だが、突然何かにぶつかった。




「あっ…」

「あ、ごめんな。大丈夫?」




ぼやけていた焦点が合う。

またも同じように、赤い帽子を被った人がいた。

先程の恐怖と、罪悪感が甦る。




「す、すみません」

「おれは大丈夫だよ。きみ、随分疲れてるみたいだけど、大丈…」




慣れてしまった不穏な気配に、二人とも口を閉ざす。

見れば先程も見た、黒い兵士たちがうようよといる。

こちらに対して敵意むき出しだ。




「ひっ…」

「君は下がってて」




思わず後ずさろうとするリュカの前に片手が出される。

見上げる少年の片手には、手の平大のボールが握られていた。




「行けっ、ゼニガメッ!」




黒い兵士達に向かってそのボールを投げた。

すると、中から一匹の亀が姿を現した。




「か、亀?」




その場の雰囲気に似合わないような、ファンシーな亀が軽く伸びをしている。

鳴き声もかわいらしく、ゼニッだ。




「ゼニガメ、水てっぽう!!」

「ゼニッ!」




水鉄砲ごときで相手が倒せるとは思わない。

だがその亀が口から吐き出した水は、そんな生易しい物じゃなかった。

ものすごい勢いで放たれる水は、前方の敵を一掃する。




「すご…」

「よっし!戻れっゼニガメ!」

「ゼニッ!」




敵が一匹もいなくなったのを頃合いに、先程のボールを突き出す。

と、赤い光が出てきて亀を包み込み、ボールの中へと消えていった。




「ありがとな」

「あ、あの…」

「あ、おれはポケモントレーナーのヒノリ!こいつはゼニガメっていうんだ!!」

「あ…、ボクはリュカって言います。あの、助けてくれてありがとうございました」




リュカはヒノリに向かって頭を下げる。

と、その前に小さな飴が差し出された。




「え…」

「なんか疲れてるみたいだから、食べたらいいよ。大した物持ってないけど」

「ありがとうございます」

「なんか、この辺りさっきのがウジャウジャいるんだ。試しに捕まえてみたけど無理だったし…。
おれはもう少し調べてみるよ。危ないから、リュカは気をつけて帰るんだよ」

「あ…」




ヒノリはリュカの頭を撫でて、手を振り背を向ける。

リュカは、その背を見ながら先程の野球帽の少年のことを思い出していた。




ボクのせいで、あの人は捕まっちゃたんだ。

…今度こそ、ボクが助けなきゃ。




「あ、あの!」

「なに?何か忘れ物したっけ?」

「じゃなくて…、ボ、ボクも連れてってください!!」




突然のリュカの申し出に、ヒノリは一瞬きょとんとした顔になる。

だが、すぐに険しい顔になる。



「でも、危ないよ。リュカは早くうちに…」

「さっき、変な奴にある人が捕まっちゃったんです!ボクのせいで…。だから…」

「……わかったよ」




リュカが顔を上げると、ヒノリは仕方ないという顔をしていた。

リュカに向かって手招きする。




「困ってる人は、放っておけない!だから、一緒に行こう!」

「…はい!!」




リュカは、ヒノリの元へと駆けていく。

そうして二人は、並んで歩き出した。










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